text:sesuisho:n_sesuisho7-033
醒睡笑 巻7 似合うたのぞみ
2 よろづに鈍なりし男のしかも富貴なるが男子を四人持ちたり・・・
校訂本文
よろづに鈍(どん)なりし男の、しかも富貴(ふつき)なるが、男子を四人持ちたり。雨中のつれづれに集まり居、「おのれおのれ、心に望むことを懺悔(さんげ)せよ」とあり。太郎1)言ふ、「われは日本の岩石を金銀にして、その中へ入りてゐたい」と。次郎、「われは日本の海川(うみかは)を硯の水になし、文を書きやるほとの威勢をしたい」と。三郎言ふ、「われは日本の草木を人になして使ひたき」と。
親、聞きもあへず、「いづれも一廉(ひとかど)の望みどもかな」と、嬉しげに笑ひしを、惣領(そうりやう)の言ふやう、「われは牛のへのこ2)が四つ欲しい。三つは弟(おとと)の三人に食はせ、一つは讃め給ふ父に参らせたけれども、それは天の恐れあり。迷惑ながら、われ食ふべきまでよ」。
われも人も、たけに及ばぬことを思ひ、せんなき望みをするならん3)。
翻刻
一 万に鈍(どん)なりし男のしかも冨貴(ふつき)なるか男 子を四人もちたり雨中のつれつれにあつまり ゐをのれをのれ心にのそむ事を懺悔せよと あり太郎いふわれは日本の岩石(かんせき)を金銀 にして其中へはいりてゐたひと次郎我れは/n7-20r
日本の海川(うみかは)を硯の水になし文を書やる ほとの威勢をしたひと三郎いふ我は日本の 草木を人になして使たきと親聞もあ へすいつれも一廉(かと)の望(のぞみ)ともかなとうれしけ にわらひしを惣領のいふやう我は牛のへ のこが四つほしい三つは弟(おとと)の三人にくはせ一つ はほめ給ふ父に参らせたけれどもそれは 天のおそれありめいわくながら我くふへきまでよ 我も人もたけにをよはぬ事を思ひ先なきのそみをするならん/n7-20l
text/sesuisho/n_sesuisho7-033.txt · 最終更新: 2022/07/01 10:59 by Satoshi Nakagawa