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醒睡笑 巻2 貴人の行跡
10 大相国の御前に二徳かしこまりぬ・・・
校訂本文
大相国1)の御前に、二徳かしこまりぬ。「いかなれば、おのれはこのほど見えなんだぞ」と御諚(ごぢやう)ある。「されば、九世(くせ)の戸の文殊より、『参れ』といふ告げにより、参詣つかまつりたる」よし、申し上ぐる。「何と、文殊に会ふたか」と御尋ねあり。「なかなか、御目にかかつて御言伝(おことづて)がござある」。「何とあるぞ。言上せよ」とあれば、「二徳めに目かけてたもれ。とと様、かか様」と申ければ、そのまま落涙ありしとなり。
かくてこそ、神は正直のかうべにやどらせ給はんずれ。2)
ただ大人は、うかとしたる体(てい)にて、いろいろのことを言はせ聞き、その良きを行ひ、悪しきを捨て給はんが肝要なり。時の威(ゐ)に恐れ、たまたまも御気に入ることばかりこそ申さんずれ、国のため、人のために良き道は申さぬなり。「大臣重禄不拯諫、小臣畏罪不敢言、下情不上通、此患之大也(大臣は禄を重んじて諫めを拯(いた)さず、小臣は罪を畏れてあへて言はず、下の情上に通らず、これ患の大きなるなり)」と後漢書3)にあり。
翻刻
一 大相国御前に二徳かしこまりぬいかなれは をのれは此ほと見えなんたそと御諚あるされは 九世の戸の文殊より参れといふ告に より参詣仕たるよし申上るなにと文殊に あふたかと御尋あり中々御目にかかつて 御言伝か御座あるなにとあるそ言上せよと あれは二徳めに目かけてたもれととさま かか様と申けれはそのまま落涙ありしと也 かくてこそ神は正直のかうへにやとらせ給はんすれ/n2-19r
唯大人はうかとしたる体にて色々の事 をいはせきき其よきを行あしきをすて給 はんか肝要也時の威にをそれたまたまも 御気に入事斗こそ申さんすれ国のため 人のためによき道は申さぬなり大臣ハ重 禄不拯諫小臣畏罪不敢言下情不上 通此患之大也と后漢書にあり/n2-19l
text/sesuisho/n_sesuisho2-030.txt · 最終更新: 2021/07/20 12:20 by Satoshi Nakagawa