text:sesuisho:n_sesuisho7-042
醒睡笑 巻7 似合うたのぞみ
11 夜咄する衆の中間ども供して行くに・・・
校訂本文
夜咄(よばなし)する衆の中間(ちうげん)ども、供して行くに、ころは霜月末つかた1)身に着るものの薄く短かければ、膚(はだへ)は風の棲(すみか)となり、糟糠汁(そうこうじる)さへことたらねば、腹中(ふくちう)のとぼしさに、壁のした道の傍らにちつことたたずみ、頭(かうべ)も足も冷えのぼり、三更と過ぎぬれば、食気(しよくけ)やうやうつき果て、飢寒の愁へやすからず、身のあたたかにてこそ2)眠(ねぶ)らんやうもなければ、せめて懺悔(さんげ)の物語を始め、声も惜しまず申せしは、「われが望みは別にない。天下を十日もちたや。十日の内に、夜咄する者どもをみな捕らへ、成敗して見たい」と。
その席の相客に、心ある人のさむらひて、中だちし、この旨をさだかに聞きつけ、「『寒者不貪尺玉而冀短褐。飢者不願千金而羨一飡。(寒(こご)ひたる者は尺玉(しやくぎよく)を貪(むさぼ)らずして短褐(たんかつ)を冀(ねが)ふ。飢ゑたる者は千金願はずして一飡(いちざん)を羨(よみ)んず。)』とあり。かの者、述懐も理(ことわり)」とぞ憐みける。
七夕の下部(しもべ)にかすぞやれ衾(ぶすま)天の川原の波に濡らすな
翻刻
一 夜咄(よはなし)する衆の中間(ちうげん)ども供して行に比は霜 月末つき身にきる物のうすくみじかけれは 膚(はだへ)は風の棲(すみか)となり糟糠汁(そうこうしる)さへ事たらね/n7-25l
は腹中(ふくちう)のとほしさに壁(かべ)のした道の傍(かたはら)に ちつことたたずみ頭(かうべ)も足も冷(ひえ)のほり三更(かう) と過ぬれば食気(しよくけ)漸(やうやう)つきはて飢寒(きかん)の愁(うれへ) やすからす身のあたるにてこそねふらん様 もなけれはせめてさんげの物がたりをは しめ声もおしまず申せしは我れが望(のぞみ) は別にない天下を十日もちたや十日の内に 夜咄する者どもをみなとらへ成敗(せいばい)して 見たいと其席(せき)の相客に心ある人のさむ/n7-26r
らいて中だちし此旨をさたかに聞つけ 寒者(コゴヒタルモノハ)不(ズシテ)貪(ムサボラ)尺玉(シヤクキヨクヲ)而冀(ネガフ)短褐(タンカツヲ)飢者(ウヘタルモノハ)不(ズシテ)願(ネガハ)千(セン) 金(キンヲ)而羨(ヨミンズ)一飡(イチザンヲ)とあり彼者述懐も理とそ憐みける 七夕の下部にかすそやれ衾(ふすま) 天の川原の浪にぬらすな/n7-26l
text/sesuisho/n_sesuisho7-042.txt · 最終更新: 2022/07/23 16:31 by Satoshi Nakagawa