text:sesuisho:n_sesuisho6-053
醒睡笑 巻6 若道知らず
1 久松といふ子を山寺に上せ置きたり・・・
校訂本文
久松といふ子を、山寺に上(のぼ)せ置きたり。親、見舞ひとて寺にいたり、一夜のほど泊まりたるに、久松に寄り添ふ老僧も、若きも、「すばり、すばり1)」と言ふもあり。「あかすばり」といふ人もあり。
かの親父、一円この道にうとし。不審はれぬまま、そと息子に尋ねけり。久松さかしく、「この寺の習ひに、下戸をばすばりと言ふてせせる」と語る。親聞き、「がにもげにも。下戸は酒にあふてから口がすばるほどに」とて、大きに同心したり。
ある時、夫婦連れ立ち寺に来たる。振舞ひあり。酒のみぎり、後見の法師出で、「久松殿母儀は、一つ参らぬや」と問ひければ、男の言ふ、「私は御存知のごとく、すばりではござない、女どもは一円のあかすばりにて候ふ」と申した。
よしくもれくもらば月の名や立たんわが身一人の秋ならばこそ
よしすばれすばらば若衆名や立たんわが身一人のすきならばこそ
翻刻
若道不知 一 久松といふ子を山寺にのほせをきたり親見 舞とて寺にいたり一夜のほととまりたるに 久松によりそふ老僧もわかきもすばりすばり といふもありあかすばりといふ人もあり彼 親父一円此道にうとし不審はれぬままそ とむすこにたつねけり久松さかしく此寺の習 に下戸をばすばりといふてせせるとかたる 親聞けにもけにも下戸は酒にあふてからくちが/n6-25l
すはるほとにとて大に同心したりある時夫婦 つれたち寺に来るふるまいあり酒のみぎり後 見の法師出久松殿母義は一つまいらぬやと とひけれは男のいふ私は御存知のことくすばり ては御座ないをんなともは一ゑんのあかすばり にて候と申た よしくもれくもらは月の名やたたん わか身ひとりの秋ならはこそ よしすばれすばらは若衆なやたたん/n6-26r
わか身ひとりのすきならはこそ/n6-26l
1)
肛門が狭いの意。
text/sesuisho/n_sesuisho6-053.txt · 最終更新: 2022/05/01 22:44 by Satoshi Nakagawa