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text:sesuisho:n_sesuisho5-068

醒睡笑 巻5 人はそだち

1 東の奥より都に上りたる人あり・・・

校訂本文

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東(あづま)の奥より都に上りたる人あり。さる古寺に立ち寄り、院主に参会し、物語など時過ぎけるまま、菓子持ち出でて小姓を呼び、「いかにもお茶をもみぢにたてよ」とありしを、客、「何たる子細にや」と問ふ。「ただ、『こうよう1)に』といふことなり」と。

「あなおもしろの言の葉や」と覚えつつ、本国に帰り、わざと近付きの友を呼び振舞ひ、かねてより小姓に言ひ教へ、「お茶をもみぢにたて申せ」とあり。人々、「さすがに、このたび上洛のしるしあり」と感じ、ことのおもむきをうかがひたれば、「『こくよくたて申せ』といふことだよ」と。

あながちのその人のとがにはあらず。物ごと、ただ国の風による2)

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   人はそだち
一 東(あつま)の奥(おく)より都にのぼりたる人ありさる古寺
  に立寄院主(ゐんしゆ)に参会(さんくわい)し物語など時過ける
  まま菓子持出て小性をよびいかにもお茶を
  もみぢにたてよとありしを客なにたる子細
  にやととふただこうようにといふ事也とあなお
  もしろのことの葉やとおほえつつ本国に
  帰り態ちかづきの友をよびふるまいかねて
  より小性にいひおしへお茶をもみぢにたて/n5-51l
  申せとあり人々さすがに此度上洛のしるし
  ありとかんし事のおもむきをうかがひ
  たれはこくよくたて申せといふ事たよと
   あながちのその人のとがにはあらず物毎たた国の風による/n5-52r
1)
「濃くよく」のウ音便。
2)
底本、この文数文字下げで小書き。
text/sesuisho/n_sesuisho5-068.txt · 最終更新: 2022/03/14 00:22 by Satoshi Nakagawa