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text:sesuisho:n_sesuisho4-113

醒睡笑 巻4 唯あり

24 山科の道づらに四の宮川原といふ所袖くらべとて・・・

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山科の道づらに、四の宮川原といふ所、袖くらべとて商人の集まる宿の下衆(げす)ありけり。地蔵を一体作り、開眼(かいげん)もせず櫃(ひつ)に入れ、世の営みに紛れ、ほど経(へ)忘れけるに三・四年過ぎ、夢に、大路を過ぐる者、声高に人を呼ぶ。「何事ぞ」と聞けば、地蔵を呼ぶ。奥の方よりいらふるなり。「明日、天の帝釈の地蔵会(ぢざうゑ)し給ふに、参らせ給へ」と言へば、小家の内より、「参るべけれど、目も見えねば、いかでか参らん」と言ふ声すなり。

うちおどろき、「何のかくは夢に見ゆる」と、思ひまはすにあやしく、夜明け、奥をよくよく見れば、置きたりし地蔵を思ひ出でて、見出だしたりけり。「これが見え給ふにこそ」と思ひ、急ぎ開眼し奉りけりとなむ。

  仏にもまことの慈悲はましまさず思ふ人をぞ思し召さるる

  世の中はいとけなき子の面(おも)きらひ見しがなきにぞ音は泣かれける

  竹馬を今は杖とも頼むかな童遊びを思ひ出でつつ

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翻刻

一 山科の道つらに四の宮川原と云所袖(そて)くら
  べとて商人のあつまる宿の下すあり
  けり地蔵を一体作り開眼もせす櫃に入
  世の営(いとなみ)に紛(まきれ)程へ忘けるに三四年過夢に
  大路を過る者声たかに人をよふ何事ぞと
  きけは地蔵をよふおくの方よりいらふる也/n4-64l
  明日天の帝釈(たいしやく)の地蔵会し給ふに参らせ給
  へといへは小家の内より参るへけれと目も
  見えねはいかてか参らんといふ声すなり
  打驚(うちおとろき)何の角(かく)は夢(ゆめ)に見ゆるとおもひまはす
  にあやしく夜あけおくをよくよくみれは
  をきたりし地蔵を思ひ出て見出したり
  けりこれが見え給ふにこそと思ひいそき
  開眼(かいげん)し奉りけりとなむ
   仏にも実の慈悲はましまさす/n4-65r
   おもふ人をそおほしめさるる
   世中はいとけなき子のおもきらひ
   見しかなきにそ音はなかれける
   竹馬を今は杖とも頼むかな
   童あそひをおもひ出つつ/n4-65l
text/sesuisho/n_sesuisho4-113.txt · 最終更新: 2022/02/06 16:17 by Satoshi Nakagawa