宇治拾遺物語
うじしゅういものがたり
解説
鎌倉時代初期(1221年ごろか)に成立したと考えられる説話集。古本系諸本は上下二巻。
雑纂形式で197話の説話からなる。院政期に成立した『今昔物語集』、鎌倉時代中期に成立した『古今著聞集』とならんで、我が国を代表する説話文学である。
『今昔物語集』と多くの説話を共有しているが、直接の伝承関係は否定されている。文体は『今昔物語集』が漢字片仮名まじりの宣命書きで、漢文訓読調であるのに対し、『宇治拾遺物語』は仮名書き、和文体である。
『今昔物語集』のみならず、『古本説話集』や『古事談』とも多くの説話を共有する。『古本説話集』は文体まで酷似している。『古事談』に関しては益田勝実によって直接の伝承関係があるとされた。
しかし、独自説話も多く、第三話「鬼に瘤取らるること」(瘤取り爺さん)や第四八話「雀報恩の事」(舌切り雀)など、口承性の高い説話を有している。
絵巻との交渉も深く、四大絵巻に数えられる、『伴大納言絵詞』『信貴山縁起絵巻』の説話を有している。
『今昔物語集』をはじめとする、多くの説話集に影響を与えたとされる、散佚『宇治大納言物語』に言及する序を持ち、『宇治拾遺物語』のみならず中世説話集全体の成立に関する鍵として注目されている。
同時代に読まれた形跡は少ないが、近世になり古活字本が刊行され、『醒睡笑』に多くの説話が取り入れられた。さらに万治二年絵入版本の刊行により多く読まれるようになり、『逸著聞集』に取り入れられたり、『宇治拾遺煎茶友』『愚痴拾遺物語』のように書名をもじったものも現れた。
諸本
諸本は陽明文庫本・伊達本・龍門文庫本・宮内庁書陵部本などの写本による古本系 (上下2巻2冊)と、古活字本(8冊)・万治二年絵入り版本(15巻15冊)などの 流布本系に分けられが、説話配列の違いや、説話の有無などの大きな違いはなく、古本系諸本 が流布本系の上に立つものと考えられる。
また、古本系諸本はすべて上下2巻2冊からなり、古活字本もその形態を残しているため、 これが本来の形で、版本の15巻形式は刊行の際の便宜的なものであろう。
参考文献
電子テキスト
影印本
- 陽明文庫本 陽明叢書13(思文閣)
- 龍門文庫本 龍門文庫善本叢刊別編3(勉誠社)
- 宮内庁書陵部本 (笠間書院)
- 伊達本 (古典文庫)
- 古活字本 (三弥井書店)
注釈書・テキスト
- 校注国文叢書十一冊『宇治拾遺物語 池の藻屑 松蔭日記』(本居豊頴、井上頼、萩野由之、関根正直、池辺義象・14/06/28)
- 有朋堂文庫『宇治拾遺物語』全(藤井乙男・有朋堂・大正15年5月)
- 国文学名著集3『宇治拾遺物語』全(藤井乙男・文献書院・昭和2年7月)
- 万治二年版本の挿絵、すべて印刷。
- 日本古典全書『宇治拾遺物語』上・下(野村八良・朝日新聞社・上1949/10/30 下1950/02/20)
- 日本古典文学大系『宇治拾遺物語』(渡辺綱也、西尾光一校注・岩波書店・1960/05/06)
- 『宇治拾遺物語 打聞集全註解』(中島悦次・有精堂・1970/02/20)
- 校注古典叢書『宇治拾遺物語』上・下(長野嘗一・明治書院・上1975/04/15 下1980/03/15)
- 岩波文庫『宇治拾遺物語』上・下(渡辺綱也校注・岩波書店・上1976/08/25 下1977/08/25)
- 角川文庫『宇治拾遺物語』(中島悦次校注・角川書店・1960/04/20)
- 三本対照『宇治拾遺物語』(桜井光昭編・武蔵野書院・平成元年6月)
- 伊達本を底本に宮内庁書陵部本と古活字本を対校してある。簡潔な注釈付き)
- 日本古典文学全集『宇治拾遺物語』(小林智昭・小学館・1971/06/30)
- 完訳日本の古典『宇治拾遺物語』一・二(小林智昭 小林保治 増古和子・小学館・一巻1984/10/31 二巻1986/02/28)
- 新潮日本古典集成『宇治拾遺物語』(大島建彦校注・新潮社・1985/09/10)
- 新日本古典文学大系『古本説話集・宇治拾遺物語』(三木紀人、浅見和彦、中村義雄、小内一明校注・岩波書店・1990/11/20)
- 新編日本古典文学全集『宇治拾遺物語』(小林保治、増古和子訳注・小学館・1996/07/10)
抄出・鑑賞
- 鑑賞日本古典文学第十三巻『今昔物語集・宇治拾遺物語』(佐藤謙三・角川書店・1976年2月)
- 日本の文学古典編26『方丈記・宇治拾遺物語』(小島孝之・ほるぷ出版・1987年7月)
- 新潮日本古典文学アルバム『今昔物語集・宇治拾遺物語』(小峯和明 藤沢周平・新潮社・1991年1月)