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text:isoho:ko_isoho3-25

伊曾保物語

下巻 第25 庭鳥、黄金の卵を生む事

校訂本文

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ある人、庭鳥(にはとり)を飼ひけるに、日々に金のまろがしを卵(かいご)に産むことあり。主(あるじ)これを見て喜ぶことかぎりなし。しかりといへども、日に一つ産むことを堪へかねて、「二つも三つも続けざまに産ませばや」とて、その鳥を打ちさいなめども、その験(しるし)もなく、日々に一つよりほかは産まず。

主、心に思ひけるやうは、「いかさまにも、この鳥の腹には大きなる黄金(こがね)や侍るべき」とて、その鳥の腹を割く。かやうにして、頂(いただき)より足の爪先(つまさき)まで見れども、別(べち)の黄金はなし。その時、主、後悔して、「もとのままにておかましもの」をとぞ申しける。

そのごとく、人の欲心(よくしん)にふけることは、かの主が鳥の腹を割けるに異ならず。日々に少しのまうけあれば、その一命を過ぐるものなれども、積み重ねたく思ふによつて、つひに飽き足ることなうて、あまつさへに財(たから)を落して、その身をも亡ぼすものなり。

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翻刻

  廿五   庭鳥金のかいこをうむ事
ある人庭鳥をかいけるに日々に金のまろかしを
かい子にうむ事有主これを見てよろこふ事かきり
なししかりといへとも日に一つうむ事をたへ
かねて二つも三つもつつけさまにうませはやとて
その鳥をうちさいなめとも其しるしもなく日々/3-104l

https://dl.ndl.go.jp/pid/2532142/1/104

に一つより外はうますあるし心に思ひけるやう
はいかさまにも此とりのはらには大なるこかねや
侍るへきとてその鳥のはらをさくかやうにして
いたたきよりあしのつまさきまてみれともへちの
こかねはなしその時あるしこうくわいしてもと
のままにておかましものをとそ申けるそのことく
人のよくしんにふける事はかのあるしかとりの
はらをさけるにことならす日々にすこしのまう
けあれはその一命をすくる物なれともつみかさね
たく思ふによつてつゐにあきたる事なふてあまつ
さへにたからをおとして其身をもほろほすもの也/3-105r

https://dl.ndl.go.jp/pid/2532142/1/105

text/isoho/ko_isoho3-25.txt · 最終更新: by Satoshi Nakagawa