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text:isoho:ko_isoho3-14

伊曾保物語

下巻 第14 野牛と狐の事

校訂本文

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ある時、野牛と狐と渇(かつ)にのぞんで井桁(ゐげた)の中(うち)に落ち入りて、水を飲み終つて後、上がらんとするによしなき。狐、申しけるは、「二人ながらこの井桁の中にて死なんもはかなきことなれば、はかりごとをめぐらして、いざや上がらん」とぞ云ひける。野牛、「もつとも」と同心す。

狐、申しけるは、「まづは御辺(ごへん)、背(せい)を伸(の)べ給へ。その背中に登りて上に上がり、御辺の手を取りて上へ引き上げ奉らん」と云ふ。野牛、「げにも」とて背を伸べけるところを、狐、その頭(あたま)を踏まへて上に上がり、笑つて云はく、「さてもさても、御辺は愚かなる人かな。その髭(ひげ)ほど智恵を持ち給はば、われいかがせん。何としてかは、御辺を引き上げ奉らんや。さらば」とて帰りぬ。野牛、むなしく井のもとに日を送りて、つひにはかなくなりにけり。

そのごとく、われも人も難儀(なんぎ)にあはんことは、まづわが難儀を逃れて後、人の難をも除くべし。わが身地獄に落ちて、他人楽しみを受くればとて、わが合力になるべきや。これを思へ。

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翻刻

  十四   野牛と狐の事
ある時野牛ときつねとかつに望てゐけたのうちに
おち入て水をのみおはつて後あからんとするに/3-94r
よしなき狐申けるはふたりなからこの井けた
の中にて死なんもはかなき事なれははかりことを
めくらしていさやあからんとそいひける野牛もつ
ともと同心すきつね申けるはまつは御辺せいを
のへ給へ其せなかにのほりて上にあかり御辺の
手をとりて上へひきあけ奉らんといふ野牛けにも
とてせいをのへける所をきつねそのあたまをふま
へてうへにあかりわらつて云さてもさても御辺は
おろかなる人かなそのひけほとちゑをもち給はは
われいかかせんなにとしてかは御辺をひきあけたて
まつらんやさらはとてかへりぬ野牛むなしくゐの/3-94l

https://dl.ndl.go.jp/pid/2532142/1/94

もとに日をおくりてつゐにはかなくなりにけり其
ことく我も人もなんきにあはん事はまつわか難
儀をのかれて後人の難をものそくへしわか身地
こくにおちて他人たのしみをうくれはとてわか
合力になるへきやこれを思へ/3-95r

https://dl.ndl.go.jp/pid/2532142/1/95

text/isoho/ko_isoho3-14.txt · 最終更新: by Satoshi Nakagawa