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text:isoho:ko_isoho3-13

伊曾保物語

下巻 第13 獅子王と驢馬の事

校訂本文

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ある驢馬(ろば)病(やまひ)しけるところに、獅子王来たりて、その脈(みやく)を取りこころむ。驢馬、これを恐るることかぎりなし。獅子王、ねんごろのあまりに、その身を、あそこここをなでまはして、「いづくが痛きぞ」と問へば、驢馬、謹(つ)しんで云はく、「獅子王の御手の当たり候ふ所は、今までかゆき所も痛く候ふ」と、震い震いぞ申しける。

そのごとく、人の思惑(おもはく)をも知らず、ねんごろだてこそうたてけれ。大切を尽くといふとも、常に馴れたる人のことなり。知らぬ人にあまりに礼をするも、かへつて狼藉(らうぜき)とぞ見えける。

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翻刻

  十三   師子王と驢馬の事
有ろはやまいしける所にしし王来てそのみやく
をとりこころむろはこれをおそるる事かきりなし/3-93l

https://dl.ndl.go.jp/pid/2532142/1/93

師子王ねんころのあまりにその身をあそこここ
をなてまはしていつくかいたきそととへはろはつ
しんて云ししわうの御手のあたり候所はいままて
かゆき所もいたく候とふるいふるいそ申けるその
ことく人のおもはくをもしらすねんころたてこそ
うたてけれ大切をつくすといふともつねになれ
たる人の事なりしらぬ人にあまりに礼をするも
かへつてらうせきとそみえける/3-94r

https://dl.ndl.go.jp/pid/2532142/1/94

text/isoho/ko_isoho3-13.txt · 最終更新: by Satoshi Nakagawa