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text:isoho:ko_isoho3-12

伊曾保物語

下巻 第12 鷲と烏の事

校訂本文

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ある鷲、餌食(ゑじき)のために、羊の子をつかみ取つて食らふことありけり。烏(からす)、これを見て、「あなうらやまし。いづれも鳥の身として、何かはかやうにせざるべき」と我慢おこし、「われも」とて、野牛のあるを見て、つかみかかりぬ。それ、野牛の毛は縮みて深きものなり。かるがゆゑに、かへつておのれが脛(すね)をまとひて、はためくところを、主人、走り寄つて、烏を捕りて、「奇怪(きつくわい)なり。いましめて命を絶つべけれども」とて、羽を切つてぞ放しける。

ある人、かの烏に向かつて、「なんぢは何者ぞ」と問へば、烏、答へて云はく、「昨日は鷲、今日は烏なり」と云へり。

そのごとく、わが身のほどを知らずして、人の威勢(いせい)を羨む者は、鷲のまねをする烏たるべし。

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翻刻

  十二   鷲の烏の事
あるわしえしきのために羊の子をつかみとつて
くらふ事ありけりからすこれを見てあなうらや
ましいつれも鳥の身としてなにかはかやうにせ
さるへきとかまんおこし我もとてやきうのあるを
みてつかみかかりぬそれやきうのけはちちみてふ/3-93r
かきもの也かるかゆへにかへつてをのれかすねを
まとひてはためく所を主人はしりよつてからすを
とりてきつくわいなりいましめて命をたつへけれ
ともとてはねをきつてそはなしけるある人かの
烏にむかつて汝は何ものそととへはからす答云き
のふはわしけふはからすなりといへりそのことく
我身のほとをしらすして人の威勢をうらやむもの
は鷲のまねをするからすたるへし/3-93l

https://dl.ndl.go.jp/pid/2532142/1/93

text/isoho/ko_isoho3-12.txt · 最終更新: by Satoshi Nakagawa