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text:isoho:ko_isoho2-33

伊曾保物語

中巻 第33 鳥、獣と戦ひの事

校訂本文

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ある時、鳥、獣(けだもの)とすでに戦ひに及ぶ。鳥の云はく1)、戦(いくさ)に負けて今はかうよと見えける時、蝙蝠(かうもり)、畜類(ちくるい)にこしらへ返る。鳥ども憂へて云はく、「かれらがごときの者さへ、獣のにくだりぬ。今はせんかたなし」と悲しむところに、鷲、申しけるは、「何事を歎くぞ。われこの陣2)にあらんほどは頼もしく思へ」といさめて、また獣の陣に押し寄せ、このたびは鳥の軍(いくさ)よかんめれ、互ひに和睦(くわぼく)してんげり。

その時、鳥ども申しけるは、「さても蝙蝠は二心ありけること、いかなる罪科をか与へん」といふ中に、古老の鳥、あへて申しけるは、「あれほどの者をいましめてもよしなし。しよせん今日よりして鳥の交はりをなすべからず。白日に徘徊(はいくわい)することなかれ」といましめられて、鳥の翼を剥ぎ取られ、今は渋紙(しぶがみ)の破れを着て、やうやう日暮れにさし出でけり。

そのごとく、人も親しき仲を捨てて、無益(むやく)の者と組することなかれ。「六親不案なれば、天道にもはづれたり」と見えたり。

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翻刻

  卅三   鳥けたものとたたかひの事
有時鳥けたものとすてにたたかひにおよふとりの
云いくさにまけて今はかうよとみえけるときかう
もり畜類にこしらへかへる鳥ともうれへて云かれ
らかこときの物さへけたものにくたりぬいまは
せんかたなしとかなしむ所に鷲申けるはなに事
をなけくそわれこの陳にあらんほとはたのもしく/2-67l

https://dl.ndl.go.jp/pid/2532142/1/67

思へといさめて又けたもののちんにをしよせこの
たひはとりのいくさよかんめれたかひにくはほく
してんけりその時とりとも申けるはさてもかう
もりは二心ありける事いかなるさいくはをかあた
へんといふ中にこらうの鳥あへて申けるは
あれ程の物をいましめてもよしなし所詮けふより
してとりのましはりをなすへからすはく日にはい
くわいする事なかれといましめられてとりのつは
さをはきとられ今はしふかみのやふれをきてやう
やう日暮にさし出けりそのことく人もしたしき
中をすててむやくの物とくみする事なかれ六/2-68r
親ふ案なれは天道にもはつれたりとみえたり/2-68l

https://dl.ndl.go.jp/pid/2532142/1/68

1)
「云はく」は意味不明。誤字か。
2)
底本表記「陳」
text/isoho/ko_isoho2-33.txt · 最終更新: by Satoshi Nakagawa