text:isoho:ko_isoho2-29
目次
中巻 第29 鼬の事
校訂本文
ある時、鼬(いたち)、鼠の罠にかかることありけり。その主(あるじ)、これを見付けて、たちまち殺さんとす。鼬ささへて申しけるは、「いかに主人、聞こし召せ。われを殺し給ふべきことわりなし。そのゆゑは、御内に徘徊(はいくわい)する鼠といふいたづら者をば亡ぼし候ふ。その上、いささか御障りともなること候はず」と申しければ、主、答へて云はく、「何をもつてか助くべき道理とせんや。鼠を亡ぼすといふも、わが潤色(じゆんしよく)にあらず。なんぢが餌食(ゑじき)とせんためなり。いはれなし」とて打ち殺しぬ。
そのごとく、われ難儀出来(しゆつたい)するとて、あはてて言葉を云ふべからず。始め終はりを思案すべし。命を失なはんのみならず、後日のあざけり口惜ししとなり。
翻刻
廿九 いたちの事 ある時いたち鼠のわなにかかる事ありけりその主 是を見つけてたちまちころさんとすいたちささへ て申けるはいかに主人聞召せわれをころし給ふへき ことはりなしその故は御内にはいくわいする鼠と いふいたつら物をはほろほし候その上いささか御 さはりともなる事候はすと申けれは主答云なにを もつてかたすくへきたうりとせんやねすみをほろ/2-63l
https://dl.ndl.go.jp/pid/2532142/1/63
ほすといふも我しゆんしよくにあらす汝かえしき とせんためなりいはれなしとてうちころしぬ其 ことく我難儀出来するとてあはててことはをいふ へからすはしめおはりをしあんすへし命をうし なはんのみならす後日のあさけり口おししとなり/2-64r
text/isoho/ko_isoho2-29.txt · 最終更新: by Satoshi Nakagawa