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text:isoho:ko_isoho2-27

伊曾保物語

中巻 第27 烏と孔雀の事

校訂本文

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ある時、烏(からす)、孔雀を見て、かの翼にさまざまの文(あや)あることをうらやみ、とある木陰に孔雀の羽(は)の落ちけるを拾ひ取つて、わが尾羽(をば)にさしそへて、孔雀の振舞ひをなし、わが傍輩(はうばい)をあなづりけり。孔雀、このよしを見て、「なんぢは賤しき烏の身となり。なんぞわれらが振舞ひなしけるぞ」とて、思ふままにいましめて、交はりをなさず。

その時、烏、もとの傍輩に云ふやう、「われ、よしなき振舞ひをなして、恥辱を受くるのみならず、さんざんにいましめられぬ。御辺(ごへん)たちは、若き人なれば、向後(きやうこう)その振舞ひをなし給ふな」とて申しける。

そのごとく、身、賤しうして上(かみ)つ方の振舞ひをなし、あるいは交はりをなせば、つひにおのれがもとの姿を現はすによて、恥辱を受くること、さだまれる儀なり。悪人として、一たん善人の振舞ひをなせども、ついにわが本性をあらはすものなり。これを思へ。

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万治二年版本挿絵

翻刻

  廿七   からすとくしやくの事
ある時烏くしやくを見てかのつはさにさまさまの
あやある事をうらやみとあるこかけにくしやく/2-61l

https://dl.ndl.go.jp/pid/2532142/1/61

のはのおちけるをひろひとつて我尾はにさしそへ
て孔雀のふるまひをなしわかはうはひをあなつり
けりくしやく此よしをみて汝はいやしきからすの
身となりなんそわれらかふるまひなしけるそとて
思ふままにいましめてましはりをなさすそのとき
からすもとのはうはひにいふやう我よしなきふる
まひをなしてちしよくをうくるのみならすさん
さんにいましめられぬ御辺たちはわかき人なれは
けうかうそのふるまひをなし給ふなとて申ける
其ことくみいやしうしてかみつかたのふるまひを
なしあるひはましはりをなせはつゐにをのれか/2-62r
もとのすかたをあらはすによてちしよくをうくる
事さたまれる儀なり悪人として一たん善人のふる
まひをなせとも終にわか本しやうをあらはす物也
これをおもへ/2-62l

https://dl.ndl.go.jp/pid/2532142/1/62

text/isoho/ko_isoho2-27.txt · 最終更新: by Satoshi Nakagawa