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text:isoho:ko_isoho2-24

伊曾保物語

中巻 第24 燕と諸鳥の事

校訂本文

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ある所に、燕と万(よろづ)の鳥と集まりゐけるほどに、燕申すやう、「ここに麻(あさ)といふもの播く所あり。おのおのこれを引き捨て給へかし」と歎きければ、諸鳥(しよてう)これに組せぬのみならず、かへつて燕をあざける。

燕、申すやう、「御辺(ごへん)たち、何事を笑ひ給ふぞ。この麻と申すは、苧(お)といふ物になんなりて、罠ぞ、かづらぞとて、われらがためには大敵なり。おのおのは、後日の災ひを知り給はず」と申しけれども、諸鳥ども同心せず。

その時、燕申すやう、「しよせん御辺たちと向後(きやうこう)組することあるべからず」とて、諸鳥に変はつて、燕は人の内に巣をくふことも、これや初めにてありける。

そのごとく、あまたの人の中をひ出でて能道を示すといへども、用ゐずは、巻いて懐(ふところ)にす。また、いかに人同じやうに悪ししと云ふとも、味はひをなめ試みよ。智者の云ふこと、などかは悪しかるべき。

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翻刻

  廿四   つはめとしよ鳥の事
ある所につはめと万の鳥とあつまり居けるほとに/2-58l

https://dl.ndl.go.jp/pid/2532142/1/58

つはめ申やうここにあさといふ物まく所ありをの
をの是をひきすて給へかしとなけきけれは諸鳥是に
くみせぬのみならすかへつてつはめをあさけるつ
はめ申やう御辺たちなに事を笑給ふそこのあさ
と申はおといふ物になん成てわなそかつらそとて
われらかためには大てき也をのをのは後日のわさ
はひをしり給はすと申けれとも諸鳥とも同心せす
そのときつはめ申やうしよせん御辺たちとけう
かうくみする事あるへからすとてしよてうに
かはつてつはめは人の内にすをくふ事もこれや
初にて有けるそのことくあまたの人の中をひ出て/2-59r
能道をしめすといへ共もちいすはまひてふところ
にす又いかに人同やうにあししと云共あぢはひ
をなめ心みよ智者のいふことなとかは悪かるへき/2-59l

https://dl.ndl.go.jp/pid/2532142/1/59

text/isoho/ko_isoho2-24.txt · 最終更新: by Satoshi Nakagawa