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text:isoho:ko_isoho2-23

伊曾保物語

中巻 第23 獅子王と鼠の事

校訂本文

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ある時、獅子王、前後も知らず臥しまどろみける所に、鼠、あまたさし集ひ遊び戯(たはぶ)れけるほどに、臥したる獅子王の上に、鼠一つ飛び上がりぬ。その時獅子王、目覚めおどろき、この鼠を捕りてひつ下げ、すでに打ち砕かんとしけるが、獅子王、心に思ふやう、「これほどの者どもを失なひければとて、いかほどのことあるべきや」と云ひて、助け侍りき。鼠、命を拾ひ、「さらに、われらたくみけることに侍らず。あまりに遊び戯れけるほどに、まことの怪我にて侍れ」と、かの獅子王を礼拝して去りぬ。

その後、獅子王、ある所にて罠(わな)にかかり、すでに難儀に及びける時、鼠、このよしを聞きて、急ぎ獅子王の前に馳せ参じ、「いかに獅子王、聞こし召せ。いつぞや、われらを助け給ふ。その御恩に、今また助け侍らん」とて、かの罠の端々(はしばし)を食ひ切り、獅子王を救ひてけり。

そのごとくに、あやしの者なりとて、親しくなつけ侍らんに、いかでかその徳を得ざらん。ただ威勢あればとて、凡下(ぼんげ)の者を卑しむべからず。

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翻刻

  廿三   師子王と鼠の事
ある時師子王せんこもしらすふしまとろみける
所に鼠あまたさしつといあそひたはふれける程に
臥たるししわうの上にねすみ一つとひあかりぬ其
ときししわうめさめをとろきこのねすみをとりて
ひつさけすてにうちくたかんとしけるかしし王
心に思やうこれほとのもの共をうしなひけれはとて
いかほとの事あるへきやといひてたすけ侍りき
ねすみ命をひろいさらに我らたくみける事に
侍らすあまりにあそひたはふれける程にまことの
けかにて侍れとかのししわうを礼拝してさりぬ/2-58r
其後しし王有所にてわなにかかりすてになんきに
およひけるとき鼠此よしをききていそき師子王
前にはせさんしいかに師子王きこしめせいつそ
やわれらをたすけ給ふその御をんにいま又たすけ
侍らんとてかのわなのはしはしをくゐきりしし
わうをすくひてけりそのことくにあやしの物なり
とてしたしくなつけ侍らんにいかてかそのとくを
えさらんたたいせひあれはとてほんけのものをい
やしむへからす/2-58l

https://dl.ndl.go.jp/pid/2532142/1/58

text/isoho/ko_isoho2-23.txt · 最終更新: by Satoshi Nakagawa