text:isoho:ko_isoho2-22
目次
中巻 第22 馬と犬の事
校訂本文
ある人、ゑのこ1)をいといたはりけるにや、その主人、ほかより帰りける時、かのゑのこ、その膝に上(のぼ)り胸に手を上げ、口のほとりをねぶりまはる。これによつて、主人愛することいやましなり。
馬(むま)、ほのかにこのよしを見て、うらやましくや思ひけん、「あつぱれ、われもかやうにこそし侍らめ」と思ひ定めて、ある時、主人ほかより帰りける時、馬、主人の胸に飛びかかり、顔をねぶり、尾を振りてなどしければ、主人これを見て、はなはだ怒りをなし、棒をおほとて2)、もとの馬屋(むまや)に押し入れける。
そのごとく、人の親疎(しんそ)をわきまへず、わがかたより馳走(ちそう)顔こそ、はなはだもつてをかしきことなれ。わがほどほどに従つて、その挨拶をなすべきなり。
翻刻
廿二 むまといぬとの事 ある人ゑのこをいといたはりけるにやその主人外 よりかへりけるときかのえのこそのひさにのほり/2-57r
むねに手をあけ口のほとりをねふりまはるこれに よつて主人あひする事いやましなりむまほのか に此よしを見てうら山しくや思ひけんあつはれ我 もかやうにこそし侍らめと思ひさためてある時 主人外よりかへりけるときむま主人のむねにとひ かかりかほをねふり尾をふりてなとしけれはしゆ しん是を見てはなはたいかりをなしはうをおほと てもとのむま屋におし入けるそのことく人のしん そをわきまへすわかかたよりちそうかほこそはな はたもつておかしき事なれ我程々にしたかつて 其あひさつをなすへき也/2-57l
text/isoho/ko_isoho2-22.txt · 最終更新: by Satoshi Nakagawa