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text:isoho:ko_isoho2-20

伊曾保物語

中巻 第20 鷲と蝸牛(かたつぶり)の事

校訂本文

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ある時、鷲(わし)、「蝸牛(かたつぶり)を食らはばや」と思ひけれど、いかんともせんことを知らず、思ひわづらふところに、烏(からす)傍らより進み出でて申しけるは、「この蝸牛を亡ぼさんこと、いとやすきことにてこそ侍り。われ申すべきやうにし給ひて後、われにその半分を与へ給はば教へ奉らん」と云ふ。鷲、請けがうて、そのゆゑを問ふに、烏、申しけるは、「かの蝸牛を把み上がり、高き所より落し給はば、その殻たちまちに砕けなん」と云ふ。案のごとくし侍りければ、たやすく取つてこれを食ふ。

そのごとく、たとひ権門(けんもん)・高家(かうけ)の人なりとも、わが心をほしいままにせず、智者の教へに従ふべし。そのゆゑは、鷲と烏を比べんに、その徳、などかはまさるべきなれども、蝸牛のしわざにおいては、烏もつともこれを得たる。ことにふれて、ことごとに人に問ふべし。

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万治二年版本挿絵

翻刻

  二十   わしとかたつふりの事
有時わしかたつふりをくらははやとおもひけれと
いかんともせん事をしらす思ひわつらふ所に烏
かたはらよりすすみ出て申けるは此かたつふりを/2-55l

https://dl.ndl.go.jp/pid/2532142/1/55

ほろほさん事いとやすき事にてこそ侍我申へき
やうにし給ひて後我に其半分をあたへたまはは
おしへ奉らんといふ鷲うけかうてその故をとふに
からす申けるはかのかたつふりをつかみあかり高
き所よりおとし給ははそのからたちまちにくたけ
なんといふあんのことくし侍けれはたやすくとつて
これをくふそのことくたとひけんもんかうけの人
成共わか心をほしゐままにせすちしやのおしへ
にしたかふへしそのゆへはわしとからすをくら
へんにそのとくなとかはまさるへきなれともかた
つふりのしはさにおゐてはからすもつともこれを/2-56r
えたる事にふれてことことに人にとふへし/2-56l

https://dl.ndl.go.jp/pid/2532142/1/56

text/isoho/ko_isoho2-20.txt · 最終更新: by Satoshi Nakagawa