text:isoho:ko_isoho2-04
中巻 第4 イソポ、帝王に答へる物語の事
校訂本文
さるほどに、ネタナヲ国王、イソポを語ら、夜な夜な昔今の物語どもし給ふ。
ある夜、イソポ夜ふけて、ややもすれは眠(ねぶ)りがちなり。「奇怪なり。語れ語れ」と責め給へば、イソポ、つつしんで承はり、叡聞(えいぶん)にそなへて云はく、「近きころ、ある人、千五百疋の羊を飼ふ。その道に河あり。底深くして、徒歩(かち)にて渡ることかなはず。常に大船をもつてこれを渡る。ある時、にはかに帰りけるに、船を求むるによしなし。いかんともせんかたなくして、ここかしこ尋ね歩(あり)きければ、小舟一艘汀(みぎは)にあり。また二人とも乗るべき舟にもあらず。羊一疋、われとともに乗りて渡る。残りの羊数多ければ、そのひまいくばくの費(つひ)えぞや」と云ひて、また眠(ねむ)る。
その時国王、逆鱗(げきりん)あつて、イソポをいさめ給ふ。「なんぢが睡眠(すいめん)狼藉(らうぜき)なり。語り果せ」と綸言(りんげん)あれば、イソポ、恐れ恐れ申しけるは、「千五百疋の羊を、小舟にて一疋づつ渡せば、その時刻いくばくかあらん。その間に眠り候ふ」と申しければ、国王、大きに叡感(えいかん)あつて、「なんぢが才覚はかりがたし」。「御さんあれ」とて暇(いとま)を乞ふ。
をかしくも、また感情(かんせい)も深かりけり。
翻刻
四 伊曾保帝王に答る物語の事 去ほとにねたなを国王いそ保をかたらひよなよな 昔今の物語ともし給ふある夜伊曾ほ夜ふけて ややもすれはねふりかちなりきくわいなりかたれ かたれとせめ給へはいそ保つつしんて承ゑいふんに そなへて云ちかき比ある人千五百疋の羊をかふ其 道に河ありそこふかくしてかちにてわたる事 かなはすつねに大船をもつてこれをわたる有時俄 にかへりけるに船をもとむるによしなしいかん共 せんかたなくしてここかしこたつねありきけれは 小舟一そう汀にあり又ふたりとものるへき舟にも/2-41r
あらす羊一疋我とともにのりてわたるのこりの 羊かすおほけれはそのひまいくはくのつゐへそや といひて又ねむるそのとき国王けきりんあつてい そ保をいさめ給ふ汝かすいめんらうせき也語はた せとりんけんあれはいそほおそれおそれ申けるは千 五百疋の羊を小舟にて一ひきつつわたせはそのち こくいくはくかあらんその間にねむり候と申け れは国王大きにゑいかんあつて汝か才覚はかりか たし御さんあれとていとまをこふおかしくも又 かんせいもふかかりけり/2-41l
text/isoho/ko_isoho2-04.txt · 最終更新: 2025/03/17 00:45 by Satoshi Nakagawa