text:isoho:ko_isoho2-03
中巻 第3 ネタナヲ、イソポに尋ね給ふ不審の事
校訂本文
ネタナヲ帝王、イソポに問ひ給はく、「ゲレシヤの国の駒(こま)いななく時は、当国の雑役(ざうやく)1)孕(はら)むことあり。いかん」とのたまへば、イソポ申けるは、「たやすく答へがたう候ふ。いかさまにも、明日こそ奏すべけれ」とて、御前をまかり立つ。
イソポ、その夜、猫を打擲(ちやうちやく)す。所の人、これを怪しむ。そのゆゑは、かの国には天道を知らず、猫を面(おもて)と敬ひける。かるがゆゑに、これを奏聞(そうぶん)に達す。
御門、このよし聞こし召して、イソポを召し出だされ、「なんぢ、何によつてか、猫を打つや」と、のたまへば、イソポ答へて云はく、「今夜、この猫、わが国の庭鳥(にはとり)を食ひ殺し候ふほどに、さてこそ戒めて候へ」と申しければ、「いかでか、さることのあるべき。当国 とその国とは遥かにほど遠き所なれば、一夜がうちに行かんこといかに」と、のたまへば、イソポ申しけるは、「げれしやの国の駒いななきける時、当国の雑役孕むことあり。そのごとく、当国の猫もわが国の庭鳥をも食らひ候ふ」と申しければ、「げにも」とのたまひけり。
翻刻
三 ねたなを伊曾保に尋給ふふしんの事 ねたなを帝王いそ保に問たまはくけれしやの国の こまいな鳴時は当国のさうやくはらむ事ありい かんとの給へはいそ保申けるはたやすく答かたふ 候いかさまにも明日こそそうすへけれとて御前を まかりたつ伊曾ほその夜ねこをちやうちやくす 所の人これをあやしむそのゆへはかのくにには天 道をしらすねこをおもてとうやまひけるかるか故/2-40r
にこれをそうふんにたつすみかとこの由きこし召 ていそほをめし出され汝なにによつてかねこを うつやとの給へはいそほ答云今夜このねこ我くに の庭鳥をくひころし候程にさてこそいましめて 候へと申けれはいかてかさる事のあるへき当国 とそのくにとははるかにほととをき所なれは一夜 かうちにゆかん事いかにとの給へはいそほ申ける はけれしやのくにのこまいななきける時当こく のさうやくはらむ事ありそのことくたうこくの ねこもわかくにの庭鳥をもくらひ候と申けれ はけにもとのたまひけり/2-40l
1)
牝馬
text/isoho/ko_isoho2-03.txt · 最終更新: 2025/03/16 20:52 by Satoshi Nakagawa