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text:isoho:ko_isoho1-19

伊曾保物語

上巻 第19 ネタナヲ帝王、不審の事

校訂本文

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さるほどに、イソポ誅(ちゆう)せられけるよし隠れなし。これによつて、諸国より不審をかくることひまもなし。

中にも、エジツトの国ネタナヲと申す御門よりかけさせ給ふ御不審に云はく、「われ虚空に一つの殿閣(でんかく)を建てむとす。その建てやう以下(いげ)を示し給へ。御工(たくみ)によつて殿閣たちまち造畢(ざうひつ)せば、あまた財(たから)を奉り、その上、年々(としどし)に御調物(みつきもの)を参らすべし。すみやかにこの不審を開き給へ」と書きとめ給ふ。

御門1)、このよし叡覧(えいらん)あつて、百官・卿相(けいしやう)そのほか才智学芸にたづさはるほどの者どもを召し出だされ、「このこといかが」と問ひ給へども、少しも不審を開くことなし。これによつて、御門、御不興(ふきよう)の御こととぞ聞こえける。

上下万民の人々、並みゐて歎き悲しみあへり。主上、御悲しみのあまりにのたまひけるは、「さてもイソポを失なひ給ふこと、わがなすわざといひながら、ひとへにわが国の亡びなんもとひ」とぞのたまひける。「もしこの不審を開かずは、後日の恥辱はかりがたし。いかにいかに」とばかりにて、両眼(りやうがん)より御涙がちにてわたらせ給ふ。

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翻刻

  十九   ねたなを帝王ふしんの事
さるほとにいそほちうせられけるよしかくれなし
これによつて諸国よりふしんをかくる事ひまも
なし中にもえしつとの国ねたなをと申みかとより
かけさせ給ふ御ふしんにいはく我こくうにひとつ
のてんかくをたてむとす其たてやう以下をしめし
給へ御たくみによつててんかくたちまちさうひ/1-29l

https://dl.ndl.go.jp/pid/2532142/1/29

つせはあまたたからを奉りそのうへとしとしに
御調物をまいらすへしすみやかに此ふしんをひら
き給へとかきとめ給ふみかと此よしえいらんあつ
て百官けいしやうその外才智学藝にたつさはる程
のものともを召出されこの事いかかととひ給へ共
少もふしむをひらくことなし是によつてみかと
御ふけうの御事とそきこえける上下はんみんの
人々なみゐてなけきかなしみあへり主上御かなし
みの餘にの給ひけるはさてもいそほをうしなひ給
事我なすわさといひなからひとへにわか国のほろ
ひなんもとひとそのたまひけるもしこのふしんを/1-30r
ひらかすは後日のちしよくはかりかたしいかにいかに
と斗にて両かんより御涙かちにて渡らせ給ふ/1-30l

https://dl.ndl.go.jp/pid/2532142/1/30

1)
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text/isoho/ko_isoho1-19.txt · 最終更新: 2025/03/13 13:25 by Satoshi Nakagawa