text:isoho:ko_isoho1-02
目次
上巻 第2 荷物を持つ事
校訂本文
ある時、シヤント旅行におもむかせ給ふに、下人どもに荷物を当て行ふ。「われも、われも」と軽(かろ)き荷物を争ひ取りて、これを持つ。
ここに食物(じきもつ)を入れたるものありけり。その重きに恐れてこれを持つ者なし。「さらば」とて、イソポ、辞(じ)するに及ばず、「何事も殿の御奉公(ほうこ)ならば」とて、これを持つ。「その日の重荷、イソポに過ぎたる者なし」と、皆人言ひけり。
日数経てゆくほどに、この食物を常に用ゆ。かるがゆゑに、日にそへて軽(かろ)くなりけり。果てにはいと軽(かる)き荷物持ちてけり。「あつぱれ、かしこき心あてかな」とて、そねみ給ふ人々ありけり。
翻刻
第二 荷もつをもつ事 あるときしやんと旅行におもむかせ給ふに下人/1-7r
ともににもつをあておこなふわれもわれもとかろ きにもつをあらそひとりてこれをもつここに食物 を入たるものありけりそのおもきにおそれてこれ をもつ物なしさらはとていそほちするにをよはす なに事も殿の御ほうこならはとてこれをもつそ の日のをもにいそ保にすきたるものなしと皆人 いひけり日かすへてゆくほとにこのしき物をつね にもちゆかるかゆへに日にそへてかろくなりけり はてにはいとかるきにもつもちてけりあつはれか しこき心あてかなとてそねみ給ふ人々ありけり/1-7l
text/isoho/ko_isoho1-02.txt · 最終更新: 2025/02/20 19:02 by Satoshi Nakagawa