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text:towazu:towazu1-35

とはずがたり

巻1 35 世の中も恐しければ二日にや急ぎ何かと申しごとつけて出でぬ・・・

校訂本文

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世の中も恐しければ1)、二日にや、急ぎ何かと申しごとつけて出でぬ。

その夜やがて彼2)にもおはしつつ、「いかがすべき」と言ふほどに、「まづ大事に病むよしを申せ。さて、『人の忌ませ給ふべき病(やまひ)なり』と陰陽師(おんやうじ)か言ふよし、披露せよ」などと、そろひゐて言はるれば、そのままに言ひて、昼はひめもすに臥し暮らし、うとき人も近付けず、心知る人二人ばかりにて、「湯水も飲まず」など言へども、とりわきとめ来る人のなきにつけても、「あらましかば」と、いと悲し。

御所ざまへも、「御いたはしければ、御使(つかひ)な給ひそ」と申したれば、時などとりて御訪れ、かかる心構へ、つひに漏りやせむと、行末いと恐しながら、今日・明日は、みな人、さと思ひて、善勝寺ぞ3)、「さてしもあるべきかは。医師(くすし)はいかが申す」など申して、たびたび詣で来たれども、ことさら広ごるべきことと申せば、わざと」など言ひて、見参(げざむ)もせず、しひて、「おぼつかなく」などいふ折は、暗きやうにて衣(きぬ)の下にて、いとものも言はねば、まことしく思ひて立ち帰るも、いと恐し。

さらでの人は、誰問ひ来る人もなければ、添ひゐたるに、その人はまた、「春日にこもりたり」と披露して、代官をこめて、「人の文などをば、あらましとて、返事をばする」などささめくも、いと心苦し。

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翻刻

といひおもふよりほかの事なきに九月にもなりぬよの
中もをろ(そ歟)ろしけれは二日にやいそきなにかと申ことつけ
ていてぬその夜やかてかれにもおはしつついかかすへきといふ
程にまつ大事にやむよしを申せさて人のいませ給へ
きやまひなりとをんやうしかいふよしをひろうせよなと
とそろひゐていはるれはそのままにいひてひるはひめも
すにふしくらしうとき人もちかつけす心しる人二人はかり/s44l k1-79

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/44

にてゆみつものますなといへともとりわきとめくる人のな
きにつけてもあらましかはといとかなし御所さまへも御いたは
しけれは御つかひな給そと申たれは時なととりて御
をとつれかかる心かまへつゐにもりやせむと行すゑいとおそ
ろしなからけふあすはみな人さと思てせんせうし
そさてしもあるへきかはくすしはいかか申なと申てたひたひ
まうてきたれともことさらひろこるへき事と申せはわさと
なといひてけさむもせすしゐておほつかなくなといふおりは
くらきやうにてきぬのしたにていと物もいはねはまことしく
思ひてたち帰もいとをそろしさらての人はたれとひく
る人もなけれはそひゐたるにその人は又かすかにこも/s45r k1-80
りたりとひろうして代官をこめて人の文なとをは
あらましとて返事をはするなとささめくもいと心くるしかかる/s45l k1-81

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/45

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1)
「恐しければ」は底本「をろ(そ歟)ろしけれは」。「ろ」に「そ歟」と傍書。
2)
雪の曙
3)
四条隆顕
text/towazu/towazu1-35.txt · 最終更新: 2019/04/18 16:02 by Satoshi Nakagawa