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text:tosanikki:se_tosa26

土佐日記

1月17日 室津〜室津

校訂本文

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十七日、くもれる雲なくなりて、暁月夜(あかつきづくよ)いともおもしろければ、船を出だして漕ぎ行く。この間に、雲の上も海の底も、同じごとくになんありける。むべも、昔の男は、「棹は穿(うが)つ波の上の月を。船は圧(おそ)ふ海のうちの天(そら)を。1)」とは言ひけむ。聞きざれに聞けるなり。

また、ある人の詠める歌、

  水底(みなそこ)の月の上より漕ぐ船の棹にさはるは桂(かつら)なるらし

これを聞きて、ある人のまた詠める。

  影見れば波の底なるひさかたの空漕ぎ渡るわれぞわびしき

かく言ふ間に、夜やうやく明けゆくに、楫取りら、「黒き雲、にはかに出で来ぬ。風吹きぬべし。御船(みふね)返してむ」と言ひて、船帰る。この間に雨降りぬ。いとわびし。

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翻刻

十七日くもれるくもなくなりてあかつ
きつくよいともおもしろけれはふね
をいたしてこきゆくこのあひたに
くものうへもうみのそこもおなし
ことくになんありけるむへもむ/kd-24l

https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100421552/24?ln=ja

かしのをとこはさをはうかつなみ
のうへのつきをふねはおそふうみの
うちのそらをとはいひけむきき
されにきけるなりまたあるひとの
よめるうた みなそこのつきのうへ
よりこくふねのさをにさはるは
かつらなるらしこれをききてある
ひとのまたよめるかけみれはなみの
そこなるひさかたのそらこきわたる/kd-25r
われそわひしきかくいふあひたに
よやうやくあけゆくにかちとりらく
ろきくもにはかにいてきぬかせふき
ぬへしみふねかへしてむといひてふね
かへるこのあひたにあめふりぬいとわひし/kd-25l

https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100421552/25?ln=ja

1)
賈島「棹穿波底月。船圧水中天。」
text/tosanikki/se_tosa26.txt · 最終更新: 2023/09/12 22:56 by Satoshi Nakagawa