text:takamura:s_takamura1-12
1-12 その日の夜さり火をほのかにかきあげて泣き臥せり・・・
校訂本文
その日の夜さり、火をほのかにかきあげて泣き臥せり。後(あと)の方そそめきけり。火を消ちて見れば、添ひ臥す心地しけり。死にし妹(いもうと)の声にて、よろづの悲しきことを言ひて、泣く声も言ふことも、ただそれなれば、もろともに語らひて、泣く泣くさぐれば、手にも触らず、手にだに当たらず。懐(ふところ)にかき入れて、わが身のならんやうも知らず1)、臥さまほしきこと限りなし。
泣きながす涙の上にありしにもさらぬ泡ぬ浮かべる2)
女、返し、
つねに寄るしばしばかりは泡なればつひにとげなんことぞ悲しき
といふほどに、夜明けにければなし3)。
翻刻
かひなしその日のよさり火をほのかに かきあけてなきふせりあとの/s19r
かたそそめきけり火をけちてみ れはそひふす心地しけりしにし いもうとのこゑにてよろつのかなしき 事をいひてなくこゑもいふことも たたそれなれはもろともにかたら ひてなくなくさくれはてにもさはらす てにたにあたらすふところにかき 入て我身のならんやうもふさま ほしき事かきりなし なきなかす涙の上にありしにも/s19l
https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100002868/viewer/19
さらぬあはぬうかへる(本) 女返し つねによるしはしはかりはあはなれは つゐにとけなんことそかなしき といふほとに夜あけにけれはなく/s20r
text/takamura/s_takamura1-12.txt · 最終更新: 2022/08/29 02:11 by Satoshi Nakagawa