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text:takamura:s_takamura1-13

篁物語

1-13 親は捨てていにければとかくおさむることはただこの兄ぞしける・・・

校訂本文

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親は捨てていにければ、とかくおさむることは、ただこの兄(せうと)ぞしける。人はみな捨てて行きにければ、兄、従者三・四人、学生(がくさう)一人して、この女を、死にける屋(や)をいとよくはらひて、花・香焚きて、遠き所に火を灯してゐたれば、この魂、夜な夜な来て語らひける。

三七日、いとあざやかなり。四七日1)、時々見えけり。この男、涙尽きせず泣く。その涙を硯の水にて法華経を書きて、比叡2)の七日のわざしけり。その人、七日はなし果てても、ほのめくこと絶えざりけり。

三年過ぎては夢にもたしかには見えざりけり。なほ悲しかりければ、始めのごとしてなんまかせたりける。妻(め)にもよらで、独りなむありける。

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おやはすててゐにけれはとかく
おさむることはたたこのせうとそし
ける人はみなすてて行にけれは
せうとすんさ三四人かくさう
一人してこの女をしにけるやを/s20r
いとよくはらいてはなかうたき
てとをき所に火をともして
いたれはこのたましゐよなよなきて
かたらひける三七日いとあさやか
なり七日時々みえけりこのおとこ
なみたつきせすなくその涙を
すすりの水にて法花経をかき
てひへの七日のわさしけりその人
七日はなしはててもほのめく事
たえさりけり三年すきては夢/s20l

https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100002868/viewer/20

にもたしかにはみえさりけりなを
かなしかりけれははしめのことして
なんまかせたりけるめにもよら
てひとりなむありける時の右大臣/s21r

https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100002868/viewer/21

1)
底本「四」なし。諸本により補う。
2)
比叡山延暦寺
text/takamura/s_takamura1-13.txt · 最終更新: 2022/08/29 02:16 by Satoshi Nakagawa