text:takamura:s_takamura1-09
1-9 かく夢のごとある人は孕みにけり・・・
校訂本文
かく夢のごとある人は、孕みにけり。書(ふみ)読む心地もなし。「例のさはりせず」など、うたてある気色を見て、この兄(せうと)も「いとほし」とおしみて、人々、春のことにやありけん、物も食はで、花柑子(はなかうじ)・橘(たちばな)をなん願ひける。知らぬほどは、親求めて食はす。兄、大学のあるじするに、「みな取らまほし」と思ひけれど、二・三ばかり畳紙(たたうがみ)に入れて取らす。
「あだに散る花橘の匂ひには緑のきぬの香(か)こそまさらめ
これを聞こしめすなればなん」。
返事に、「御懐(ふところ)にありければなん、
似たりとや花橘をかぎつれば緑の香(か)さへ移らざりけり」
翻刻
かくゆめの事ある人ははらみにけり ふみよむ心地もなしれいのさはりせ すなとうたてあるけしきをみて このせうともいとをしとをしみて 人々はるの事にやありけん物 もくはてはなかうしたちはなを/s15l
https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100002868/viewer/15
なんねかひけるしらぬほとはおやも とめてくはすせうとたいかくのあ るしするにみなとらまほしと おもひけれと二三はかりたたうかみ に入てとらす あたにちる花橘のにほひには みとりのきぬのかこそまさらめ これをきこしめすなれはなん返事 に御ふところにありけれはなん にたりとや花たちはなをかきつれは/s16r
みとりのかさへうつらさりけり/s16l
text/takamura/s_takamura1-09.txt · 最終更新: 2022/08/29 01:50 by Satoshi Nakagawa