text:sanboe:ka_sanboe3-18
目次
下巻 四月 18 灌仏
校訂本文
灌仏(くわんぶつ)1)
承和七年四月八日に、清涼殿にして、はじめて御灌仏(おほんくわんぶつ)のことを行はしめ給ふ。律師静安(じやうあん)候ひて、経に説ける旨(むね)をもちて、そのあるへきことを奏し定む。やがて今日の御導師をつかまつらる。これより後に広まれり。殿上日記(てんじやうのにつき)に見えたり。
灌仏像経に云はく、「十二月、諸(もろもろ)の仏は、みな四月八日をもて生まれ給ふ。春・夏の間にして、よろづの物あまねく生ふ。寒からず暑からずして、時のほどによくととのほればなり」と言へり。
また浴像経に、仏ののたまはく、「われ今、像に湯浴(ゆあ)むす法を説く。諸の供養の中にことすぐれたりとす。もし仏に浴(あ)むし奉らむと思はば、諸の妙なる香を水に入れつつ浴むし奉れ。水を汲む時には、まさに偈(げ)を誦(ず)すべし」とのたまへり。
人、必ずしもその偈を覚えねば、僧をもちて誦せしめて、讃歎(さんだん)せしむるなり。
我今灌沐諸如来(がこんくわんよくしよによらい)
浄智功徳荘厳聚(じやうちくどくしやうごんらい)
五濁衆生令離苦(ごじよくしゆじやうりやうりく)
願証如来浄法身(ぐわんしようによらいじやうほふしん)
といへる偈は、釈迦如来の説き給へるなり。
また、「ももさくに やそさかそへて たまへてし ちぶさのむくい けふせずは いつかわがせん としはをつ さよはへにつつ2)」といふことは、行基菩薩の唱へたるなり。
翻刻
灌仏 承和七年四月八日ニ清涼殿ニシテハシメテ御灌仏ノ事ヲ行ハシメ玉フ律師静 安候テ経ニトケル旨ヲモチテソノアルヘキ事ヲ奏シ定ムヤカテ今日ノ御導師 ヲツカマツラルコレヨリ後ニヒロマレリ殿上日記ニ見ヘタリ灌仏像経云十二 月諸ノ仏ハミナ四月八日ヲモテ生玉フ春夏ノ間ニシテヨロツノ物アマネク生 フサムカラスアツカラスシテ時ノホトニヨクトトノホレハ也トイヘリ又浴像 経ニ仏ノノ給ハク我今像ニ湯アムス/n3-47r・e3-45r
法ヲトク諸ノ供養ノ中ニ事スクレタリトス若仏ニアムシタテマツラムト思ハ ハ諸ノ妙ナル香ヲ水ニ入ツツ浴(アム)シタテマツレ水ヲクム(汲)時ニハマサ ニ偈ヲ誦スヘシト乃給ヘリ人必シモソノ偈ヲオホヘネハ僧ヲモチテ誦セシメ テ讃歎セシムル也我今灌沐諸如来 浄智功徳荘厳聚 五濁衆生令離苦 願證如来浄法身 トイヘル偈ハ尺迦如来ノ説給ヘル也又ももさくにやそさかそへて たまへてしちふさのむくいけふせすはいつかわかせんとしはをつ/n3-47l・ e3-45l
https://dl.ndl.go.jp/pid/1140087/1/47
さよはへにつつといふ事ハ行基菩薩ノトナヘタルナリ/n3-48r・e3-46r
text/sanboe/ka_sanboe3-18.txt · 最終更新: 2024/12/08 12:45 by Satoshi Nakagawa