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text:sanboe:ka_sanboe3-01

三宝絵詞

下巻 正月 1 修正月

校訂本文

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修正月(しうしやうぐわつ)

仏説き給はく、「一日も斎(いもひ)1)を持(たも)てば、六十万歳の粮(かて)を得つるなり。一歩(ひとあゆみ)も寺に向かへば、百千万劫の罪を消つ」とのたまへり。また経に云はく、「正月五月九月には、帝釈、南閻浮提(なんえんぶだい)に向かひて、衆生(しゆじやう)の作る所の善悪を記す。この月には、湯浴み、斎(いもひ)して、もろもろの良きことを行なへ」と言へり。

これによりてなるべし、天(あめ)の下の人、正月にはみなつつしむ。公(おほやけ)は七つの道の国々に、法師・尼に布施を賜びて勤め祈らしめ、私(わたくし)には、もろもろの寺に男女(をとこをむな)御灯明(みあかし)をかかげて集まり行ふ。また、命を延ぶることと聞きて、粥をもちて僧に施(せ)する人もあり。

四分律(しぶんりつ)には「四つの利益あり」と説き、僧祇律(そうぎりつ)には「十の利益あり」と明かせり。偈(げ)の文(もん)に云はく、「人、天の長き命の楽しびを得むと思はば、今まさに粥をもちて諸(もろもろ)の僧に施すべし」と言へればなり。

身の上のことを祈り、年の中のつつしみをなすに、寺として行なはぬなく、人として清まはらぬなければ、年の始めには、国の中に善根(ぜんこん)あまねく満ちたり。まさに知るべし、帝釈の玉の鏡に照らし、閻王(えんわう)の金(こがね)の札(ふだ)に記すべし。

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正月
 修正月
仏説給ハク一日モイモヒ(戒)ヲタモテハ六十万歳ノ粮(カテ)ヲエツル/n3-10l・e3-8l

https://dl.ndl.go.jp/pid/1140087/1/10

ナリ一歩(アユミ)モ寺ニムカヘハ百千万劫ノツミヲケツト乃給ヘリ又経
ニ云ク正月五月九月ニハ帝尺南閻浮提ニ向テ衆生ノ
ツクル所ノ善悪ヲシルス此月ニハ湯アミイモヒシテモロモロノ
ヨキコトヲオコナヘトイヘリ是ニヨリテナルヘシアメノシタノ人正月
ニハミナツツシムオホヤケハ七ノ道ノ国々ニ法師尼ニ布施ヲタヒ
テツトメイ乃ラシメ私ニハモロモロノ寺ニ男女(ナ)ミアカシヲ
カカケテアツマリオコナフ又命ヲ乃フルコトト聞テ粥ヲモチテ
僧ニ施スル人モアリ四分律ニハ四ノ利益アリトトキ僧祇/n3-11r・e3-9r
律ニハ十ノ利益アリトアカセリ偈ノ文ニ云ク人天ノナカキ命
ノ楽ヒヲエムト思ハハイママサニカユヲモチテ諸ノ僧ニホトコスヘシ
トイヘレハナリ身ノ上ノコトヲ祈リ年ノ中ノツツシミヲナスニ寺ト
シテオコナハヌナク人トシテキヨマハラヌナケレハ年ノハシメニハ国ノ
中ニ善根アマネクミチタリマサニ知ヘシ帝尺ノ玉ノ鏡ニ照シ
閻王ノ金ノフタニシルスヘシ/n3-11l・e3-9l

https://dl.ndl.go.jp/pid/1140087/1/11

1)
底本「戒」と傍書。前田家本「斉」により訂正。
text/sanboe/ka_sanboe3-01.txt · 最終更新: 2024/10/26 22:35 by Satoshi Nakagawa