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text:sanboe:ka_sanboe2-09

三宝絵詞

中巻 9 山城国囲碁沙弥

校訂本文

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昔、山城国に一人の沙弥(しやみ)あり。俗と共に囲碁を打つほどに、乞者(こつじや)来たりて法華経一品(いつぽん)を読みて、食(じき)を乞ふ。沙弥、これを聞きて、軽(かろ)み笑ひ謗(そし)る。ことさらに口をゆがめ、音(こゑ)を訛(なま)らかして、真似み読む。俗、これを聞きて、碁を打つ言葉はには、「あな恐し、あな恐し」と云ふ。

俗は度(たび)ごとに勝つ。沙弥は度ごとに負く。すなはち居ながら口ゆがみぬ。医師を呼びて薬をもちてつくろへど、つひに治らず。

法華経に云はく、「もし軽(かろ)み笑ふ者あらば、まさに世々(せぜ)に牙歯(げし)疎(まば)らに缺(か)け、醜くく、脣(くちびる)黒み、鼻平(ひら)み、手足脚(てあし)繚(もと)り戻(ゆが)み、目すがめになるべし1)と云ふこれなり。

霊異記2)に見えたり。

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昔山城国ニ一人ノ沙弥アリ俗ト共ニ囲碁ヲウツホトニ乞
者来テ法華経一品ヲヨミテ食ヲコフ沙弥是ヲキキテカロミ
ワラヒソシルコトサラニ口ヲユカメ音ヲナマラカシテマネミ読俗是
ヲキキテコヲウツコトハニハ穴恐シ々々ト云俗ハタヒコトニ勝ツ沙弥
ハ毎度ニ負ク即乍居口ユカミヌ医師ヲヨヒテ薬ヲモチテ/n2-32l・e2-29l

https://dl.ndl.go.jp/pid/1145963/1/32

ツクロヘトツヒニナヲラス法華経ニ云モシカロミワラフ物アラハ当世々ニ
牙歯疎ニ缺(カケ)醜(ミニクク)脣(クチヒル)黒(クロミ)鼻(ハナ)ヒラミ手足脚(テアシ)繚(モトリ)戻(ユカミ)眼目角
膝ト云是也霊異記ニ見ヘタリ/n2-33r・e2-30r

https://dl.ndl.go.jp/pid/1145963/1/33

1)
「目すがめになるべし」は底本「眼目角睞」。読みは東大寺切(関戸家本)による。
2)
日本霊異記
text/sanboe/ka_sanboe2-09.txt · 最終更新: 2024/09/10 01:24 by Satoshi Nakagawa