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text:sanboe:ka_sanboe2-01d

三宝絵詞

中巻 1 聖徳太子(4)

校訂本文

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太子1)の御舅(をぢ)崇峻天皇2)位につき給ひぬ。この御世に、太子、年十九にて初冠(うひかぶり)し給ひぬ。

また御姑(をば)推古天皇位につき給ひぬ。国の政(まつりごと)をば、みなことごとく太子につけ給へり。

百済国の使にて阿佐(あさ)といふ王子来たれり。太子を拝みて申さく、「敬礼救世観世音菩薩(きゃうらいぐぜくわんぜおんぼさつ)。妙教流通東方日本国(めうけうるつうとうぼうにつぽんこく)。四十九歳伝燈演説(しじふくさいでんとうせんぜつ)。」と申す。太子、この時に眉間より白光を放ち給ふ。長さ三丈ばかり、しばらくありてしじまり入りぬ。

甲斐国より奉れる黒駒(くろこま)の四足(よつあし)白きに乗りて、雲に入りて東に去り給ひぬ。舎人(とねり)使丸(つかいまろ)を御馬の右にそへり。人々あふぎて見る。信濃国3)に至りて、三越(みこし)4)の境をめぐる。三日ありて帰り給へり。

太子、推古天皇の御前にして、高座にのぼりて勝鬘経(しようまんきやう)を講じ給ふ。諸(もろもろ)の名僧をもて義を問はしむるに、説き答ふること妙(たへ)なり。三日講じ終る夜、天より蓮華降れり。花の広さ三尺ばかりなり。地に降り積めること四尺ばかりなり。この所に満ち満ちたり。あくる朝(あした)、天皇見給ひて、その地に寺を立てしめ給ふ。今の橘寺(たちばなでら)これなり。その降れれし花、今にこの寺にあり。

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翻刻

仏法サカリトナリヌ太子ノ御舅崇峻天王位ニツキ給ヌ
コノ御世ニ太子年十九ニテウヰカフリシ給ヌ又御姑(ヲハ)推古
天皇位ニツキ給ヌ国ノマツリコトヲハ皆コトコトク太子ニツケ
給ヘリ百済国ノ使ニテ阿佐トイフ王子来レリ太子ヲ
オカミテ申サク敬礼救世観世音菩薩妙教流通
東方日本国四十九歳伝燈演説ト申太子此時ニ
眉間ヨリ白光ヲハナチ給長三丈ハカリ蹔アリテシシ/n2-13l・e2-10l

https://dl.ndl.go.jp/pid/1145963/1/13

マリ入ヌ甲斐国ヨリタテマツレル黒駒ノ四足白キニ
ノリテ雲ニ入テ東ニサリ給ヌ舎人使丸ヲ御馬ノ右
ニ副リ人々アフキテミル信乃国ニイタリテ三越ノサカヒ
ヲメクル三日アリテカヘリ給ヘリ太子推古天皇ノ御前ニ
シテ高座ニノホリテ勝鬘経ヲカウシ給諸ノ名僧ヲ
モテ義ヲ問シムルニ説答事妙也三日講シヲハル夜
天ヨリ蓮花フレリハナノヒロサ三尺ハカリ也地ニフリ
ツメルコト四尺ハカリ也コノ所ニミチミチタリアクル朝天皇/n2-14r・e2-11r
ミ給テ其地ニ寺ヲ立シメ給今ノ橘寺是也ソノフレレ
シ花イマニ此寺ニアリ又太子小野妹子ヲ使トシテサキ/n2-14l・e2-11l

https://dl.ndl.go.jp/pid/1145963/1/14

1)
聖徳太子
2)
底本表記「天王」。
3)
底本表記「信乃国」。
4)
越前・越中・越後
text/sanboe/ka_sanboe2-01d.txt · 最終更新: 2024/08/29 21:31 by Satoshi Nakagawa