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text:karakagami:m_karakagami1-01

唐鏡 第一 伏羲氏より殷の時にいたる

1 伏羲氏

校訂本文

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伏羲氏(ふぎし)と申し侍りし帝皇は木徳なり。御母は華胥(くわしよ)と申しき。雷沢といふ所にて太人の跡を履みて帝を生み奉れり。姓は風なり。蛇の身にて人の首ましましき。木徳にて、百王の先たり。位東方にありて、春日の明をつかさどり給ふゆゑに、太皞(たいかう)1)と申しき。竜図(りやうとう)を受けて、景龍の瑞ありき。竜をもて紀(しる)して、宮の号を竜師といひき。

琴といふ楽器は四十五絃にて、長さ八尺一寸、この帝の作り給へるなり。嫁娶の礼もこの御時ぞ始まれり。始めて八卦を作り給ひて、縄を結びて綱罟(こうこ)として漁猟2)をもしたひき。犠牲をとりて庖厨(はうちゆう)にほだれしゆゑに庖犠氏とも申しき。伏羲氏の天下に王たる始めて八卦を書き、書契(しよけい)を造りて、縄を結びし政に代へたり。これによて、文籍生3)といへり。御在位一百一十年、山陽といふ所に送り奉りき。

この帝は応声大士(おうしやうたいし)の権化にて、五濁(ごぢよく)を斎(すく)はんために五常をのたまへ給へりとも申せり。五常とは仁義礼智信なり。愍傷(びんしやう)して殺さざると仁と曰ふ。害を防いで婬せざるを義と曰ふ。心を持ちて酒を禁ずると礼と曰ふ。清察(せいさつして盗せざるを智と曰ふ。法にあらざれば言はざると信と曰ふ。この五徳は、王者国を治め、君子身を立つる道なり。暫(しばし)も虧(か)き、暫も廃(す)つることなかるべきゆゑに、五常とは申すなり。

この五常は天にては五緯なり。地にては五嶽なり。人に在りては五臓なり。物に在りては五行なり。内典に五戒と申すなはちこれなり。また、「西方阿弥陀仏、宝応声4)・宝吉祥5)の二大菩薩に勅して、日月を造りて眼目を開く」と見たれば、日月もこの御時より出で来給ひたりけるにや。

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翻刻

唐鏡第一
 伏羲氏(フキシ)より殷の時にいたる
伏羲氏と申侍し帝皇は木徳(モクトク)なり御母は華胥(クワシヨ)と申き
雷沢といふところにて太(タイ)人の跡を履(フミ)て帝をむみたてま
つれり姓は風なり蛇の身にて人の首ましましき木徳
にて百王の先たり位東方にありて春日の明をつかさ
とり給ゆへに太昊(タイカウ)と申き龍図(リヤウトウ)を受て景龍の瑞あり
き龍をもて紀して宮の号を龍師(シ)といひき琴といふ
楽器は四十五絃て長八尺一寸この帝のつくりたまへる也
嫁娶の礼もこの御時そはしまれり始て八卦(クワ)を作り給て/s7l・m13

https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100182414/viewer/7

縄を結て綱罟(コウコ)として漁猟(スナトリカリ/リヤウシノ心)をもしたひき犠牲(ギセイ)をとりて
庖厨(ハウテウ)にほたれしゆへに庖犠氏(ハウキシ)とも申き伏羲氏の天下に
王たる始て八卦(クワ)を書き書契(シヨケイ)を造(ツクリ)て縄(ナハ)を結(ムスヒ)し政に代(カヘ)
たり是(コレ)に由(ヨ)て文籍(フンセキ/モンシヤク)生(ナル)といへり御在位一百一十年山陽と
いふところにをくりたてまつりきこの帝は応声大士(ヲウシヤウタイシ)の権(コン)
化にて五濁を斎(スク)はんために五常を宣へたまへりとも
申せり五常とは仁義礼智信也愍傷(ヒンシヤウシテ/アハレミ)不(サルヲ)殺(コロサ)曰(イフ)仁(ト)防(フセイテ)害(カイヲ)不婬(イン/トツグ)
曰義(ト)持(モチテ)心(ココロニ)禁(キンスル)酒曰礼(レイト)清察(セイサツシテ)不(ヲ)盗(ヌスミ)曰(フ)智(ト)非(アラサレハ)法(ニ)不(ヲ)言(イハ)曰信(ト)この五徳は
王者(ワウシヤ)国(クニ)を治め君子身を立る道なり暫も虧(カ)き暫も廃(スツ/ハイ)る
ことなかるへきゆへに五常とは申なりこの五常は天にては五緯也/s8r・m14
地にては五嶽(ガク/タケ)也人に在ては五臓也物に在ては五行(キヤウ)也内典に五
戒(カイ)と申すなはちこれなり又西方阿弥陀仏宝応声(ヲウシヤウ)宝
吉(キチ)祥の二大菩薩に勅(シヨク)して日月を造て眼目を開と見た
れは日月もこの御時よりいてきたまひたりけるにや/s8l・m15

https://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100182414/viewer/8

1)
底本表記「太昊」。
2)
底本「スナトリカリ・リヤウシノ心」と傍書。
3)
底本、「文籍」に「フンセキ・モンシヤク」、「生」に「ナル」と読み仮名。
4)
観世音菩薩
5)
勢至菩薩
text/karakagami/m_karakagami1-01.txt · 最終更新: 2022/10/04 22:56 by Satoshi Nakagawa