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唐物語
第24話 上陽人上陽宮に閉じ込められて多くの年月を送りけり・・・
校訂本文
昔、上陽人、上陽宮に閉じ込められて、多くの年月を送りけり。
秋の夜、春の日、明け暮れは、風の音、虫の声より外に、またおとづるる物なきには、嵐にたぐふ紅葉の錦、百囀(ももさへづり)の鶯の声も、我ためはいと情けなき心地す。夜の雨、窓を打つ音にも、愁への涙、いとどまさりけり。
いとどしくなぐさめ難き秋の夜に窓打つ雨ぞいとどわりなき
この人、昔、内に参りけるに、その形華やかにをかしげなりけるを頼みて、楊貴妃などをも争ふ心やありけん、一生つひに、むなしき床(ゆか)をのみ守りつつ、花の形いたづらにしをれて、むばたまの黒髪、白くなりにけり。
翻刻
むかし上陽人上陽宮にとちこめられておほく のとし月ををくりけり秋の夜春の日あけく れは風のをとむしのこゑより外に又おとつ/m426
るる物なきにはあらしにたくふもみちのにし きももさへつりのうくひすのこゑも我ためは いとなさけなき心ちすよるのあめまとをうつ をとにもうれへのなみたいととまさりけり いととしくなくさめかたきあきのよに まとうつあめそいととわりなき このひとむかしうちにまいりけるにそのかたちは なやかにおかしけなりけるをたのみて楊貴妃 なとをもあらそふ心やありけん一生つゐに むなしきゆかをのみまもりつつはなのかた/m427
ちいたつらにしほれてむはたまのくろかみし ろくなりにけり/m428
text/kara/m_kara024.txt · 最終更新: 2014/12/04 03:25 by Satoshi Nakagawa