text:ise:sag_ise046
第46段 昔男いとうるはしき友ありけり片時さらずあひ思ひけるを・・・
校訂本文
昔、男、いとうるはしき友ありけり。片時(かたとき)さらずあひ思ひけるを、人の国へ行(い)きけるを、「いとあはれ」と思ひて、別れにけり。
月日経て、おこせたる文(ふみ)に、「あさましくえ対面せで月日の経(へ)にけること、『忘れやし給ひけん』と、いたく思ひわびてなむ侍る。世の中の人の心は、目かるれば忘れぬべきものにこそあめれ」と言へりければ、詠みてやる、
目かるとも思(おも)ほえなくに忘らるる時しなければ面影に立つ
翻刻
むかし男いとうるはしきともありけりか た時さらすあひおもひけるを人のくにへ いきけるをいとあはれとおもひてわかれ にけり月日へてをこせたるふみにあさ ましくえたいめんせて月日のへに けること忘やし給ひけんといたく思ひ わひてなむ侍世中の人の心はめかる れはわすれぬへき物にこそあめれといへ りけれはよみてやる/s55r
めかるともおもほえなくにわすらるる ときしなけれはおもかけにたつ/s55l
text/ise/sag_ise046.txt · 最終更新: 2024/01/08 11:50 by Satoshi Nakagawa