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昔、男ありけり。東(ひんがし)の五条わたりに、いと忍びて行(い)きけり。みそかなる所なれば、門(かど)よりもえ入らで、童部(わらはべ)の踏みあけたる築地(ついひぢ)の崩れより通ひけり。人しげくもあらねど、たび重なりければ、主(あるじ)聞きつけて、その通ひ路に夜ごとに人をすゑて守らせければ、行(い)けどもえ逢はで帰りけり。さて、詠める、

　　人知れぬわが通ひ路の関守はよひよひごとにうちも寝ななん

と詠めりければ、いといたう心やみけり。主許してけり。

二条の后¹⁾に忍びて参りけるを、世の聞こえありければ、兄(せうと)たち²⁾の守らせ給ひけるとぞ。

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昔おとこありけりひんかしの五条わたり
にいとしのひていきけりみそかなる
ところなれはかとよりもえいらてわらは
へのふみあけたるついひちのくつれより
かよひけり人しけくもあらねとたひかさ
なりけれはあるしききつけてそのかよひ
ちに夜ことに人をすへてまもらせけれは
いけともえあはてかへりけりさてよめる
　　人しれぬわかかよひちのせきもりは／s11l

https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/200024817/11?ln=ja

　　よひよひことにうちもねななん
とよめりけれはいといたうこころやみけ
りあるしゆるしてけり二条のきさきに
しのひてまいりけるを世のきこえあり
けれはせうとたちのまもらせたまひけるとそ／s12r

【絵】／s12l

https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/200024817/12?ln=ja