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一言芳談抄 巻之下
90 ある人物語に云はく諸宗の学生公請にしたがつて・・・
校訂本文
ある人、物語に云はく、「諸宗の学生(がくしやう)、公請(くじやう)にしたがつて、御仏事いまだ始まらざるほど、自他要事(じたえうじ)を相談す。一条院1)の御時などまでは、一向後世門(いつかうごせもん)のことなり。顕密の法文(ほふもん)、しかしながら、出離のためにこれを学ぶゆゑか。白河院2)の御時よりは、法文の沙汰(さた)なり。鳥羽院3)の御時に至るまでは、ひとへに世間の沙汰なり。すなはち我ら出仕の時なり。しかうして、その時までは、論議日記ばかりをばせしなり。当世はそれほどのこともなきか。宝幢院(ほうどうゐん)の本願云はく、『昔の上人は、一期、道心の有無を沙汰しき。次世(じせ)の上人は法文を相談す。当世の上人は、合戦物語(かせんものがたり)』云々」。
翻刻
或人(あるひと)物語(ものがたり)云諸宗(しよしう)の学生(がくしやう)公請(こうしやう)に随而(したがつて)御仏事(おんふつじ) いまだはしまらざる程(ほど)。自他(じた)要事(ようじ)を相談(さうだん)す。一条(でう) 院(ゐん)の御時(とき)などまては。一向後世門(いつかうごせもん)の事也。顕密(けんみつ)の法文(ほうもん) しかしながら。出離のために学之(これをまなぶ)故歟(ゆへか)。白河院御時(しらかはのゐんのおんとき) よりは。法文(もん)の沙汰(さた)也。鳥羽院(とばのゐん)御時にいたるまでは 。ひとへに。世間(せけん)のさたなり。則(すなはち)我等(われら)出仕(しゆつし)の時也然而(しかうして)其(その) 時(とき)までは。論議(ろんぎ)日記(につき)ばかりをばせし也。当世(たうせい)は其程(それほど)の 事もなき歟。宝幢院本願(ほうどうゐんのほんぐはん)云むかしの上人は一期(ご)/ndl2-12r
道心(たうしん)の有無(うむ)を沙汰(さた)しき。次世の上人(しやうにん)は法文(ほうもん)を相(さう) 談(たん)す。当世の上人は。合戦物語(かせんものがたり)云々/ndl2-12l
text/ichigonhodan/ndl_ichigon090.txt · 最終更新: 2023/10/08 21:38 by Satoshi Nakagawa