rhizome:閑居友
閑居友
かんきょのとも
概要
成立年代は、跋文に「承久四年」とあることから、承久4年(1222年)脱稿である。撰者は慶政と考えられている。
上下二巻からなり、上巻21話、下巻11話の計32話。巻にはそれぞれ冒頭に目録がある。
説話集ではあるが、各説話に作者自身の意見が多く書かれており、随筆的な性質も持っている。
第一話の後半から、鴨長明の発心集の影響を受けていることがうかがえるが、先行の説話集に書かれた説話を意図的に避けているため、他書に採られた説話はほとんどない。また、女性に関する説話が多いため、高貴な女性の依頼によって作られたとも考えられている。
『閑居友』第一話後半部分
さても、発心集には伝記の中にある人々あまた見え侍るめれど、この書には、伝に載れる人をば入るることなし。かつはかたがた憚りも侍り。また、世の中の人のならひは、わづかにおのれが狭く浅くものを見たるままに、「これはそれがしが記せるものの中にありし事ぞかし」など、よにもたやすげにいふ人もあるべし。また、もとより筆をとりてものを記せる者の心ざしは、「我この事を記しとどめずは、後の世の人いかでかこれを知るべき」と思ふより始まれるわざなるべし。さればこそ、章安大師は「この事もし墜ちなば、将来も悲しむべし」とは書き給ふらめ。いはんやまた、古き人の心も巧みに言葉もととのほりて記せらんを、今あやしげに引きなしたらむもいかがと覚え侍り。
また、この書き記せる奥どもに、いささか天竺・震旦・日域の昔の後をひと筆など引き合はせたる事の侍るは、「これを端にて知り初むる縁ともやなり侍らん」など思ひ給ひて、つかうまつれる也。
長明は、人の心をも喜ばしめ、また結縁にもせむとてこそ、伝の中の人をも載せけんを、世の人のさやうには思はで侍るにならひて、かやうにも思ひ侍るなるべし。ゆめゆめ草隠れなきかげにも、「我をそばむる詞かな」とは思ふまじきなり。
諸本
『閑居の友』の伝本は三種に分けることができ、甲類の誤綴による本文の差異から、甲類から乙類、丙類が発生したと考えられている。
また、甲類のなかでも、書陵部本と岩瀬文庫本は伝為相本の転写本と考えられ、書写年代の古さと、本文の正確さから伝為相本が最善本とされる。
甲類
- 伝為相本 尊経閣蔵
- 会・文庫所蔵重要文化財『閑居友』(前田育徳会尊経閣文庫編刊・1985年5月・勉誠社)に影印。
- 尊経閣文庫本『閑居友』:慶政に翻刻。
- 宮内庁書陵部本
- 岩瀬文庫本
- 松平文庫本 島原市立公民館蔵
乙類
- 神宮文庫本
- 木板刊本
- 寛文二年板
- 刊年不明の本
- 無刊記本
- 青蓮院板
- 続群書類従本
丙類
- 譚玄本(一) 尊経閣蔵
- 譚玄本(二) 吉田幸一蔵
参考
電子テキスト
- 尊経閣文庫本『閑居友』:慶政(やたナビTEXT)
注釈書
rhizome/閑居友.txt · 最終更新: 2015/08/14 22:01 by Satoshi Nakagawa