こんじゃくものがたりしゅう
全31巻(ただし、巻8・18・21は欠巻)一千余話(数え方によって変わるため)からなる わが国最大の説話集。
すべての説話が「今は昔」で始まることから、この書名になったと考えられる。また、すべての説話の 終わりが「となむ語り伝へたるとや」で結ばれている。
巻1〜5が天竺(インド)仏法部、巻6〜9が震旦(中国)仏法部、巻10が震旦世俗部、巻11〜 〜20が本朝(日本)仏法部、巻22〜31が本朝世俗部となっており、各説話が二話一類と いわれる、対の構成方法になっている。
漢字片仮名交じりの宣命書きで書かれ、漢文訓読調で和漢混淆文の先駆をなす文体と考えられる。また、欠文が多く見られるが、それらのほとんどは虫損によるものではなく、後に書き込むことを意識して欠文にしたものである。
また、『今昔物語集』は、近世以前に享受された形跡がほとんど見られず、未完成の作品であるともいう。
巻 | 原著の分類 | 細かい分類 |
---|---|---|
1〜3 | 天竺 | 仏陀伝から本生譚 |
4 | 天竺付仏後 | 仏滅後の仏弟子の教化伝法 |
5 | 天竺付仏前 | 仏の本生譚、仏の成道出世以前 |
6 | 震旦付仏法 | 中国への仏教伝来と流布 |
7 | 震旦付仏法 | 大般若経、法華経の霊験譚 |
8 | 欠巻 | |
9 | 震旦付孝養 | 孝子譚 |
10 | 震旦付国史 | 中国の史書・小説類の奇談 |
11 | 本朝付仏法 | 仏教伝来と諸大寺の建立 |
12 | 本朝付仏法 | 各法令の縁起・持経の功徳 |
13 | 本朝付仏法 | 法華経読誦の功徳 |
14 | 本朝付仏法 | 法華経霊験譚 |
15 | 本朝付仏法 | 僧侶の往生譚 |
16 | 本朝付仏法 | 観音霊験譚 |
17 | 本朝付仏法 | 地蔵霊験譚 |
18 | 欠巻 | |
19 | 本朝付仏法 | 俗人の往生譚・仏教奇談 |
20 | 本朝付仏法 | 天狗・復活・現報善悪 |
21 | 欠巻 | |
22 | 本朝 | 藤原家関係奇談 |
23 | 本朝 | 強力の男女 |
24 | 本朝付世俗 | 芸能 |
25 | 本朝付世俗 | 武士 |
26 | 本朝付宿報 | 民間宿報 |
27 | 本朝付霊鬼 | 鬼・生霊・死霊・狐等怪異譚 |
28 | 本朝付世俗 | 聖俗の笑話 |
29 | 本朝付悪行 | 盗賊譚・動物奇談 |
30 | 本朝付雑事 | 和歌贈答恋愛譚 |
31 | 本朝雑事 | 各地方の奇談・古代怪異譚 |
いくつかの本文系統があるが、すべて鎌倉時代の写本とされる、鈴鹿本(国宝)が祖本であるが、現存するのは巻二・五・七・九・十・十二・十七・二十七・二十九の九巻のみ。
その他、近世初期の写本として、実践女子大学本、東京大学国語研究室本などがある。
版本としては、享保5年(1720)の井沢長秀校訂による『今昔物語集』があり、その存在を世に知らしめる意味があったが、抄出にすぎず、本文もかなり変わっており、『今昔物語集』の面目を保っていない。
説話文学の項も参照のこと。