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text:yotsugi:yotsugi020

世継物語

第20話 すゑつなの少将といふ人ありたり・・・

校訂本文

今は昔、すゑつな1)の少将といふ人ありたり。

大井に住みけるころ、御門の仰せられける、「花面白くなりなば御覧ぜん」と。のたまひけれど、おぼし忘れておはしまさざりければ、少将、

  散りぬればくやしき物を大井河岸の山吹今盛りなり

このすゑつなは、病つきて、少しおこたりて、内に参りたりけり。公の弁、掃部助(かもりのすけ)にて、蔵人なりけるころの事なり。「みだり心ち、まだよくもおこたり侍らねども、心許なくて参り侍りつる。後は知らねども、かくまで侍る事。明後日(あさて)ばかり、また参侍らん。よきに申し給へ」とて、まかでぬ。

三日ばかりありて、少将のもとより、

  くやしくぞ後に会はんと契りける今日を限りといはましものを

さて、その日うせにけり。あはれなる事のさまなり。

翻刻

今は昔すゑつなの少将と云人有たり大井に住ける比
御門の仰られける花面白く成なは御覧せんとの給ひ
けれとおほし忘ておはしまささりけれは少将/12ウ
  散ぬれはくやしき物を大井河岸の山吹今盛なり
此すゑつなは病つきて少おこたりて内に参りたり
けり公の弁かもりのすけにて蔵人成ける比の事なり
みたり心ちまたよくもおこたり侍らねとも心許なくて
まいり侍つる後はしらねともかくまて侍る事あさて
はかり又参侍らんよきに申給へとてまかてぬ三日はか
り有て少将のもとより
  くやしくそ後にあはんと契けるけふを限りといはまし物を

 さて其日うせにけりあはれなる事のさま也/13オ

1)
『大和物語』100段『古本説話集』11話の「季縄」が正しい。藤原季縄
text/yotsugi/yotsugi020.txt · 最終更新: 2017/08/20 13:23 by Satoshi Nakagawa