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十訓抄 第七 思慮を専らにすべき事

7の12 先に申したる賢人の大臣他事の賢には似ず女事にしのび給はざりけり・・・

校訂本文

先に申したる賢人の大臣1)、他事の賢には似ず、女事にしのび給はざりけり。

北対の前に井あり。下女ら、「清涼水」と名付けて、集まりて汲みけり。その中に、少年の女を見て、閑所に招き寄せて、かまへられけり。

宇治殿2)、このことを聞き給ひて、侍所の雑仕のみめよきを選びて、水を汲みにつかはす。件の女に教へさせ給ひけるやう、「水汲まむに、招引あらば、そののち、水桶をば捨てて参るべし」と仰せられけり。はたして、案のごとくく招き寄せ給ひけり。

後日、宇治殿へ参られたりけるに、公事言談ののち、「先日の侍所の水桶、今は返し給はるべし」と仰せられたりければ、大臣、赤面して、申すことなくて出でられにけり。賢人なれども、振舞ひにつけて、はかられ給ひにけり。

ある時、この殿の亭の前を、ことよろしき女の通りけるを、門より走り出でて、かきいだき給ひけるに、ある人、また通りあひて、車より降りて、「あれは賢人の御振舞ひか」と言ひかけたりければ、「女事に賢人なし」と答へて、逃げ入り給ひにけり。

翻刻

十三サキニ申タル賢人ノオトト、他事ノ賢ニハ似ス、女事ニ
    シノヒ給ハサリケリ、北対ノ前ニ井アリ、下女等清涼
    水トナツケテ集テクミケリ、其中ニ少年ノ女ヲ見テ、
    閑所ニ招寄セテカマヘラレケリ、宇治殿此事ヲ聞給
    テ、侍所之雑仕ノミメヨキヲ撰テ、水ヲ汲ニ遣ス、件
    ノ女ニ教サセ給ケルヤウ、水クマムニ招引アラハ、其後水
    桶ヲハステテ参ルヘシト被仰ケリ、ハタシテ案ノ如ク招寄
    給ケリ、後日宇治殿ヘ参ラレタリケルニ、公事言談ノ後、
    先日ノ侍所之水桶、今ハ返給ハルヘシト仰ラレタリケ/k128
    レハ、大臣赤面シテ申事ナクテ出ラレニケリ、賢人ナレトモ
    振舞ニ付テハカラレ給ニケリ、或時此殿ノ亭ノ前ヲ
    事ヨロシキ女ノトヲリケルヲ、門ヨリ走リ出テ、カキイ
    タキ給ケルニ、或人又通リアヒテ車ヨリオリテ、アレハ
    賢人ノ御振舞カト云カケタリケレハ、女事ニ賢人ナシト
    答テニケ入給ニケリ、/k129
1)
藤原実資。6の34参照。
2)
藤原頼通
text/jikkinsho/s_jikkinsho07-12.txt · 最終更新: 2016/02/04 22:51 by Satoshi Nakagawa
CC Attribution-Share Alike 4.0 International
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