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十訓抄 第三 人倫を侮らざる事

3の11 丹後守保昌任国に下向の時与謝の山にて白髪の武士・・・

校訂本文

丹後守保昌1)、任国に下向の時、与謝の山にて、白髪の武士一騎会ひたりけり。木の下に少しうち入りて、笠をかたぶけて立ちたりけるを、国司の郎等いはく、「この老翁、何ぞ馬より下らざるや。奇怪なり。とがめ下ろすべし」と言ふ。

ここに、国司のいはく、「一人当千の馬の立てやうなり。ただ者にあらず。あるべからず」と制止して、うち過ぐるあひだ、三町ばかりさがりて、大矢右衛門尉致経2)、あまたの従類を具して会ひたり。弓取り直して、国司に会釈のあひだ、致経いはく、「ここに老翁や一人、会ひ奉りて候ひつらむ。あれは愚父平五大夫3)にて候ふ。堅固の田舎人にて、子細を知らず。さだめて無礼をあらはし候ふらむ」と言ひけり。

致経過ぎて後、国司、「さればこそ、致頼にてありけり」と言ひけり。

この党は頼信4)・保昌・維衡5)・致頼とて、世にすぐれたる四人の武士なり。両虎戦ふ時は、共に死せずといふことなし。保昌、彼が振舞ひを見知りて、さらに侮(あなづ)らず。郎等をいさめて無為なりけり。

いみじき高名(かうみやう)なり。弘光6)には似ざりける心賢さなり。

翻刻

丹後守保昌任国ニ下向ノ時、ヨサノ山ニテ白髪ノ武
士一騎アヒタリケリ、木ノ下ニ少シウチ入テ笠ヲカ
タフケテ立タリケルヲ、国司ノ郎等云此老翁何
不下馬哉、奇怪ナリトカメオロスヘシト云、爰ニ国司
ノ云ク、一人当千ノ馬ノ立様也、タタモノニアラス有ヘ
カラスト制止シテウチ過ル間、三町ハカリサカリテ/k127
大矢右衛門尉致経数多ノ従類ヲ具シテアヒタ
リ、弓取直シテ国司ニ会釈ノ間、致経云ク爰ニ老翁ヤ
一人アヒタテマツリテ候ツラム、アレハ愚父平五大夫
ニテ候、堅固ノ田舎人ニテ不知子細、サタメテ無礼ヲ
現候ラムト云ケリ、致経過テ後、国司サレハコソ致頼ニ
テ有ケリト云ケリ、此党ハ頼信 保昌 維衡 致頼
トテ世ニ勝タル四人ノ武士也、両虎タタカフ時ハ、共ニ
死セスト云事ナシ、保昌彼カ振舞ヲ見知テ更ニア
ナツラス、郎等ヲイサメテ無為ナリケリ、イミシ
キ高名也、弘光ニハ似サリケル心賢サナリ、/k128
1)
藤原保昌
2)
平致経
3)
平致頼
4)
源頼信
5)
平維衡
6)
越智弘光。前話参照。
text/jikkinsho/s_jikkinsho03-11.txt · 最終更新: 2015/10/23 09:53 by Satoshi Nakagawa
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