206　高倉院の御時八月二十日ごろに人々神楽をし侍りけるが・・・

校訂本文

高倉院¹⁾の御時、八月二十日ごろに²⁾、人々神楽をし侍りけるが、いとおもしろくて名残多かりければ、長月の十日あまりのころ、隆信朝臣³⁾のもとより、実国大納言⁴⁾のもとへ送りける、

　　あかぼしのあかで入りにしあか月を今宵の月に思ひ出でずや

返し、

　　ただここにただにとこそは⁵⁾思ひしに逃げしは月のかひもなかりき

高倉院の御時八月廿日日比に人々神楽をし侍けるかいと
おもしろくてなこりおほかりけれはなか月の十日あまりの比
隆信朝臣のもとより実国大納言のもとへをくりける
　あかほしのあかて入にしあか月をこよひの月に思ひいてすや
返し
　たたここにたたにとこそ思しににけしは月のかひもなかりき／s148l

¹⁾

高倉天皇

²⁾

「二十日ごろに」は底本「廿日日比に」。諸本により訂正。

³⁾

藤原隆信

⁴⁾

藤原実国

⁵⁾

「こそは」は底本「は」なし。諸本により補う。