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text:chomonju:s_chomonju192

古今著聞集 和歌第六

192 別当惟方卿は二条院の御傅にて世に重く聞こえけるが・・・

校訂本文

別当惟方卿1)は二条院2)の御傅(めのと)にて、世に重く聞こえけるが、悪(あ)しく振舞ひけるによりて、後白河院3)御憤り深かりければ、出家して配所へおもむかれけり4)

その後、同じく流されし人々、許されけれども、身一人はなほ浮(うか)みがたきよしを伝へ聞きて、

  この瀬にも沈むと聞けば涙川流れしよりも濡るる袖かな

と詠みて、故郷へ送られたりけるを、法皇伝へ聞こし召して、御心や弱りけむ、さしも罪深く思し召しけるに、この歌によりて召し返されけるとかや。

翻刻

別当惟方卿は二条院の御めのとにて世におもくきこえける
かあしく振舞けるによりて後白川院御いきとをり/s140r
深かりけれは出家して配所へおもひかれけり其後おなしく
なかされし人々ゆるされけれとも身ひとりは猶うかみかた
きよしをつたへきて
 この瀬にもしつむときけは涙川流しよりもぬるる袖哉
とよみて故郷へをくられたりけるを法皇伝きこしめして
御心やよはりけむさしも罪ふかくおほしめしけるにこの哥
によりてめしかへされけるとかや/s140l

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100190287/viewer/140

1)
藤原惟方
2)
二条天皇
3)
後白河法皇
4)
「おもむかれけり」は底本「おもひかれけり」。諸本により訂正
text/chomonju/s_chomonju192.txt · 最終更新: 2020/03/12 15:08 by Satoshi Nakagawa