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巻5第5話(40) 呪願の事
校訂本文
華厳経・大集経等に、「物ごとに呪願(じゆぐわん)すべし」と見えたり。一巻さながら呪願の文あり。世間の人。行じてなれて、口に呪願の文を唱ふれども、その意(こころ)信解(しんげ)なければ、その徳も薄かるべし。思ひ入れて信心あらば、その徳大なるべし。
昔、三蔵法師、寺物(じもつ)を借用し、非法のことに用ひおはつて、償(つぐの)ひ返さんため、他国へ行いて観化1)、持ち帰る路(みち)にて命終(みやうじゆう)す。寺物を返すといへども、不法に用ゐたるゆゑに地獄へ落つ。温室(をんしつ)に入るごとくに覚えて、呪願に云はく、「身体を沐浴、まさに願すべし。衆生身心垢なく、内外清浄ならん」。呪願によりて、地獄を出でて、了(おは)つて天に生ず。律蔵の中にこれあり。
慈童女長者、貧乏にして、一人の母を養ふ。薪を拾ひてこれを売り養ふに、不足の意(こころ)にて、海に入り宝を採り養はむために、母に暇(いとま)を乞ふに、母許さず。あひそふと思へるに、母が髪を一茎引き抜いて海へ行く。路に迷うて金銀瑠璃(こんごんるり)の城(じやう)に、数万歳快楽(まんざいけらく)し、その後(のち)地獄へ入る。獄率(ごくそつ)、火輪を戴(いただ)かしめて云はく、「なんぢ、薪を拾ひて母を養ふゆゑに、数万歳、その果報に楽を受く。今、母が髪を抜いて心に違(い)するゆゑに、この火輪を戴くべし、云々」。慈童女が云はく、「この地獄に受苦(じゆく)の人多きや」。答ふ、「数を知らず」。われ火輪を戴くこと幾年(いくとし)ぞや。答ふ、「なんぢがごときの人来たらん時、この火輪戴すべし」と。童女云はく、「もししからば、この地獄の衆生の苦、われ一人代はて受くべし」と云ふ時、火輪、地に落ちて、兜率天(とそつてん)に生まれき。
天台の師2)、このことを釈し給ふには、「十界の果報、身(しん)は差別(しやべつ)せり。十界の心は無碍(むげ)にして、仏界の心を発(ほつ)せり」と釈し給へり。仏心、内(うち)に生じ、苦果、外(ほか)に滅するなり。これはただ呪願なり。言(ことば)、美(び)ならねども、心、まことの呪願あり。衆生の言(ことば)、みな衆生と共に仏法に入りて、二利円満の願なれば、いるかせに思ふべからず。纔(わづ)かにして、呪願の力、大なる益(やく)あるべし。
施物(せもつ)を得ては、ことに呪願すべし。心地観経の文(もん)、常の人これを知り、必ずこれ誦す。「能施所施(のうせしよせ)及び施物、三世の中において所得無ければ、われら最勝心に安住し、十方一切仏を供養せん」。華厳3)・大集4)には大小便、手水(てうず)、剃刀(かみそり)にも、みな呪願の文これあり。ことに粥斎(しゆくさい)の呪願、僧衆忘るべからざるものなり。南山大師5)の呪願の文、「この食色香人ごとにこれを知る。一切の食物に通じて呪願すべし」と見えたり。文、これかの大師の呪願の文なり。六通聞香(ろくつうもんかう)の句、殊勝なり。「念食食香、如栴檀風。一時普薫十。於食能生六波羅蜜及以三行。」(自行共行衆行也)。
呪願は事によりて定まれる言(ことば)なし。ただ志を述べて祈念す。また一切に亘(わた)て、たがはぬこともあるべし。大方(おほかた)はその意(こころ)を得て言は用ゆべしと見えたり。
本説は、呪願は上座の行ずべきことと見えたり。首座(しゆそ)の行ずるその儀か。あるいは維那(いの)これを行ず。上座は多くは長老、もしはその衆の中の上座なり。律の呪願、もつともこれを行ずべし。
在世に、俗人、僧を請じ供養することありけり。天竺の作法、在家人始めて家を作るに、もしは喜びあり、憂へもあれば、祈祷し必ず僧を請ずる習ひと云へり。ある長者、僧を請じ供養しけるに、舎利弗(しやりほつ)時の上座にて呪願しける。彼の長者、国王より朝恩の大なることありけり。妻(さい・つまの)、産(さん)平安にして、男子生みてけり。商ひ、船安穏(あんおん)にして、宝(たから)多く得たり。かかる吉事(きちじ)、計会(けいくわい)せり。よつて呪願の詞(ことば)の中に、「常に今日のごとくめでたかるべし」と申したりければ、長者、悦びて加布施(かふせ)に白㲲(はくでう)等の物、多くしてけり。
僧の中に、愚痴(ぐち)なる僧、摩伽羅(まから)と云ふありけり。このこと見聞して、うらやましく思ひて、舎利弗に、「この呪願教ゆべし」と云ふ。「呪願は時に随(したが)ひて、定れる詞(ことば)なし」と云へども、懇望(こんばう)する間、やむことなくして書ひて与ふ。
摩伽羅、上座として僧を請じて供養する長者のもとにて呪願しけり。長者、国王より子細ありて重き罸(ばつ)ありけり。妻、難産して死におはんぬ。船破(わ)れて宝多く失せおはんぬ。かくのごとく愁へのことあるに、習ひ覚えたる文を誦(じゆ)して、「常に今日のごとくなるべし」と云ふ時、長者、嗔(いか)りて杖をもつてこれを打つ。
また走りて、麦(ばく)を𧂐(いなむら)6)に積みたるを7)左に遶(めぐ)りて往くを、主(あるじ)嗔(いか)りて、「右に遶りて、『「多入、多入』と云ふべし」とて、これを打つ。天竺の習ひに、陰陽(いんやう)の理にて、左遶(さねう)は陰物(いんもつ)滅することなり、右に遶るは陽物生ずる習ひなるゆゑに云ひける。さて逃げ走る。
死人を葬送する所に行きて、右に遶りて、「多入多入」と云ふ時、人嗔りてこれを打つ。「『かくのごときのこと、今はあるべからず』と云ふべし」と云ひけり。また逃げ走る。
人、婦(め)を迎へて行くに行き合ひて、「かくのごときのこと、今はあるべからず」と云ふ時、人嗔りてこれを打つ。
逃げ走りて、雁(がん)取らんとて、網を張りて伺ひ見る者ありけるところを、荒く走るほどに、雁みな飛び去りけり。彼の輩(ともがら)、嗔りてこれを打ちて云はく、「かくのごときところをば、匍匐(ほふく)とはらばうて行くべし」と云ひける。
さて、逃げ走りて、布曝(さら)し干すところを、はらばうて行くに、守(まぼ)る者の、「窃盗のため、かくのごとくする」とてこれを打ちけり。七度打ちてけり。
呪願は時に随ふべし。愚痴の輩、彼の摩伽羅がごとくなるべし。律の中にこれあり。
呪願の本意、呪は言葉、語業(ごごふ)にわたるべし。和歌のごとく願はば意業(いごふ)、丁寧なるべし。合掌は身業(しんごふ)、慎しむべし。三業相応して行業必ず成ず。
在世に貧女非人なるありけり。糞(ふん)の中より、銭を二文見付けて、洗うて持ちたるが、僧を信して、この僧に供養しける。維那(いな)呪願すべかりけるを、時の長老の上座、感気あまり、われと丁寧に呪願しけり。
施心の因、呪願の縁、感応(かんおう)通じて、形皃(ぎやうみやう・かたち)殊勝に成つて、大国の王の后になりにけり。もとより僧を信じ、このことにいよいよ信心ありて、多く宝をもつて僧を供養しけり。その時、かの上座の僧、随喜せず。また呪願せず。夫人(ぶにん)、疑うて云はく、「わがわづかの供養をば呪願し給ひし。今、供養殊勝なり。など御随喜なき」と問ふに、「先の供養は功徳大なり。よつて呪願しき。今の供養は功徳なし」と答へけり。
只人の労(いたは)り、民の費(ついえ)なるべし。施(せ)の本意は己を止ると云へり。わが用ゆべき分を用ゐずして、いよいよする布施なり。公役(くやく)に人民の血を絞りて供養せむ、まことに功徳たるべからず。論に云はく、「それ施は心にあり。事物にあらず。多くは施と成らず」。心誠実(じやうじつ)なるを施と云ふべし。
貧女が一灯といふこと、人ごとにこれを知れり。在世に難陀(なんだ)と云ふ非人の女人ありけり。国王・長者の万灯を灯して仏に供養するを見て、うらやましく思ひて、われ先世に福業(ふくごふ)なくして貧賤の身となれり。今世に善業なくは、来世も憑(たの)みなく、悲しく覚えて、一銭を乞ひ得て、油を買ひけり。志を語るを聞きて、売る者少し添へて取らせけり。この一灯を仏に供養して、願を発(ほつ)して云はく、「われ一灯をもつて、一切衆生の愚痴の闇を照らして、大智光明法界(だいちくわうみやうほふかい)を照らして、一切衆生と共に菩提の道を成す。云々。これ、ただわが呪願なり。人の呪願を待ず」。この志、実あるゆゑに、余の灯明はみな油尽き火消えけり。この一灯、数日消えず。
目連、維那(いの)なるが、こころみに吹き扇(あふ)げども、すべて消えざりけり。目連、このことを仏8)に問ひ奉る。仏の言はく、「かの女人、大乗の心をもつて灯す。たとひ大海の水をもつて消し、大風吹くとも、消すべからず。なんぢ声聞(しやうもん)の神通及ふべからず。この功徳をもつて、多劫悪趣に堕せず。後(のち)、灯光仏と成るべし。云々」。
呪願あれども、無実の功徳少なし。心に実あれば、たとひ呪願無くとも行業成ずることこれあらん。仙人9)の意罸のごとし。
昔し梵志(ぼんじ)10)ありけり。山中にして梵行しけり。妻あひ従ひ給仕しけり。美人なりけることを国王聞き給ひて、梵志に乞ひ給ひけるを、「王の威徳、天下に召し仕ふ人乏しかるべからず。わが身には、この妻(つま)、昔の情けをもつて一人給仕することなり。御免あれ」とて、進(まゐ)らすべからざるよし申すを、「梵行を修す、女人給ふべからず」とて、押して召し取られけり。
梵志、大きに憤(いきどほ)り恨みて、天下を失ふべき念、強盛(がうじやう)なり。妻に告げて云はく、「われ天下を失ふべし。ただし、なんぢ一人、我を念じて一心にして座せよ」と教へけり。果して、天より大きなる石を下して、国王ならびに人民、一時に命おはんぬ。
これを意罸と云へり。身口(しんく)の所作なし。ただ意業至(いた)て、強盛にして、このことありけり。三業には、意業本(もと)たり。身と口とは、いかに成ること多けれども、意業の実(まこと)なければ、善悪とも業を成さず。ただわづかの遠縁(をんえん)たるべし。されば、意おこらぬことを、身口ばかりせめて、「よしなし」と思ひて、同法等をもあながちに事行なさしめず。意、実(まこと)なければ、なすこと、いたづらなるべし。少しの結縁(けつえん)はあるべし。
昔、賀茂の斎院11)、道心者にておはしける。斎院の習ひとて、昔より念仏申すことなし。これ本地の御心を知らずして、ただ凡心の思ひつけたることなるべし。常に西に向ひて仏をば御心に念じながら、口称(くしよう)なかりける。さて、詠じて云はく、
思へども忌むとて云はぬことなればそなたに向きて音(ね)をのみぞ泣く
さて、めでたく往生し給へりと申し伝へたり。
供料(くれう)にかかり、布施取らむとて、高声(かうしやう)に念仏し、頸(くび)ひねりて申す人よりも、まことあれば往生することなり。経に云はく、「もし人時に臨み念を作すことあたはざれば、ただし知らめ彼の方に仏ありと。往生の意を作さば、また往生を得。云々」。これ意念往生なり。観経12)の下品中生(げぼんちゆうしやう)13)も、ただ十二部経の名字を聞く意して往生すと見えたり。
翻刻
呪願ノ事 華厳経大集経等ニ物コトニ呪願スヘシト見ヘタリ一巻サナガラ 呪願ノ文アリ世間ノ人行シテナレテ口ニ呪願ノ文ヲ唱レトモ其ノ 意ロ信解ナケレハ其ノ徳モ薄カルヘシ思ヒ入レテ信心アラハ其ノ徳大 ナルヘシ ○昔シ三蔵法師寺物ヲ借用シ非法ノ事ニ用了テ 為償ヒ返サン他国ヘ行テ観化持帰ル路ニテ命終ス寺物ヲ返スト 云ヘトモ不法ニ用ヰタル故ニ地獄ヘ落ツ温室ニ入ル如クニ覚テ呪願ニ 云沐浴身体ヲ当ニ願ス衆生身心無垢内外清浄ナラン依テ呪願ニ出テ 地獄ヲ了テ生天ニ律蔵ノ中ニ有之 ○慈童女長者貧乏ニシテ/3-19r
一人ノ母ヲ養フ薪ヲ拾テ売之ヲ養ニ不足ノ意ニテ入海ニ採リ宝ヲ 養ハムタメニ母ニ暇ヲ乞ニ母不許サ相ヒ副フト思ヘルニ母カ髪ヲ一茎 引キ抜テ海ヘ行ク路ニ迷テ金銀瑠璃ノ城ニ数万歳快楽シ其ノ後チ 地獄ヘ入ル獄率火輪ヲ戴シメテ云ク汝薪ヲ拾テ母ヲ養フ故ニ数 万歳其ノ果報ニ受ク楽ヲ今母カ髪ヲ抜テ心ニ違スル故ニ此ノ火輪ヲ可 戴ク云々慈童女カ云ク此ノ地獄ニ受苦ノ人多キ哉答不知ラ数ヲ我レ 火輪ヲ戴コト幾年ソヤ答如ノ汝カ人来タラン時キ此ノ火輪戴スヘシト童 女云若シ然ラハ此ノ地獄ノ衆生ノ苦我レ一人代テ受ヘシト云フ時火 輪地ニ落テ兜率天ニ生レキ天台ノ師此ノ事ヲ釈シ給フニハ十界ノ果 報身ハ差別セリ十界ノ心ハ無碍ニシテ仏界ノ心ヲ発セリト釈シ給ヘリ 仏心内ニ生シ苦果外ニ滅スル也コレハ只呪願也言美ナラネトモ 心有誠呪願衆生ノ言ミナ衆生ト共ニ仏法ニ入テ二利円満ノ/3-19l
https://dl.ndl.go.jp/pid/13386679/1/19
願ナレハイルカセニ思フヘカラス纔ニシテ呪願ノ力大ナル益アルヘシ施物ヲ 得テハコトニ呪願スヘシ心地観経ノ文常ノ人知之ヲ必ス誦ス之能施 所施及ビ施物於三世ノ中無所得我等安住最勝心ニ供養 十方一切仏ヲ華厳大集ニハ大小便手水剃刀ニモ皆呪願ノ文 有之殊ニ粥斎ノ呪願僧衆不可忘者也南山大師ノ呪願ノ文 此食色香毎ニ人知之ヲ一切ノ食物ニ通シテ呪願スヘシト見タリ 文コレ彼ノ大師ノ呪願ノ文也六通聞香ノ句殊勝也念食々香 如栴檀風ノ一時ニ普薫十於食能生六波羅蜜及以ヒ三行ヲ(自行共/行衆行也) ○呪願ハ事ニヨリテ定レル言ナシ只志ヲノヘテ祈念ス又一切ニ亘テ タカハヌ事モアルヘシ大方ハ其ノ意ヲ得テ言ハ用ユヘシト見ヘタリ ○本説ハ呪願ハ上座ノ可キ行ス事ト見ヘタリ首座ノ行スル其ノ儀歟或ハ 維那行ス之ヲ上座ハ多クハ長老若ハ其衆ノ中ノ上座也律ノ呪願/3-20r
尤モ可行ス之ヲ ○在世ニ俗人請ジ僧ヲ供養スル事アリケリ天竺ノ 作法在家人始メテ作ルニ家ヲ若ハ喜ヒ有憂ヘモアレハ為祈祷必ス請スル 僧ヲ習ヒト云ヘリ或ル長者請シ僧ヲ供養シケルニ舎利弗時ノ上 座ニテ呪願シケル彼ノ長者国王ヨリ朝恩ノ大ナル事有リケリ 妻産平安ニシテ男子生ミテケリアキナヒ船安穏ニシテ宝多クエタリ カカル吉事計会セリ仍テ呪願ノ詞ノ中ニ常ニ可ト如ク今日ノ目出申 タリケレハ長者悦テ加布施ニ白㲲等ノ物ヲホクシテケリ僧ノ中ニ 愚痴ナル僧摩伽羅ト云有リケリ此ノ事見聞シテウラヤマシク思テ舎 利弗ニ此ノ呪願可教ユト云呪願ハ随テ時ニ無ト定レル詞云ヘトモ懇望スル 間無ク止コトシテ書イテアタフ摩伽羅上座トシテ僧ヲ請シテ供養スル 長者ノ許ニテ呪願シケリ長者国王ヨリ子細有テ重キ罸アリ ケリ妻難産シテ死了船破テ宝多ク失了如ク此愁ノ事有ルニ習ヒ/3-20l
https://dl.ndl.go.jp/pid/13386679/1/20
ヲホヘタル文ヲ誦シテ常ニ可ト如クナル今日ノ云時長者嗔リテ以テ杖ヲ打ツ之ヲ又 走テ麦ヲ𧂐積タルヲテ左ニ遶リテ往クヲ主シ嗔テ右ニ遶テ多入々々ト 可云トテ打之ヲ天竺ノ習ヒニ陰陽ノ理ニテ左遶ハ陰物滅スル事也 右ニ遶ハ陽物生スル習ナル故ニ云ケルサテ逃走ル死人ヲ葬送スル所ニ 行テ右ニ遶テ多入々々ト云時人嗔テ打之ヲ如此ノ事今ハ不可有ル云 ヘシト云ケリ又逃ケ走ル人婦ヲムカヘテ行ニ行キ合テ如此ノ事今ハ不ト可 有云時人嗔テ打ツ之ヲ逃ケ走テ雁取ラントテ網ヲ張テ伺ヒミル者有 ケル処ヲアラク走ルホトニ雁皆ナ飛去ケリ彼ノ輩嗔テ打テ之云ク如キ 此ノ処ヲハ匍匐トハラバウテ行ヘシト云ケルサテ逃走テ布曝干処ヲ ハラハウテ行ニ守ル者ノ為窃盗ノ如此スルトテ打之ケリ七度打テ ケリ呪願ハ可随フ時ニ愚痴ノ輩彼ノ摩伽羅カ如クナルヘシ律ノ中ニ 有之 ○呪願ノ本意呪ハ言バ語業ニ可シ亘ル如ク和歌ノ願ハ/3-21r
意業可シ丁寧ナル合掌ハ身業可慎シム三業相応シテ行業必ス成ス在世ニ 貧女非人ナル有リケリ糞ノ中ヨリ銭ヲ二文ミツケテ洗フテ持タルカ 僧ヲ信シテ此ノ僧ニ供養シケル維那呪願スヘカリケルヲ時ノ長老ノ 上座感気アマリ我ト丁寧ニ呪願シケリ施心ノ因呪願ノ縁感 応通シテ形皃殊勝ニ成テ大国ノ王ノ后ニ成ニケリ本ヨリ僧ヲ信シ 此事ニ弥信心有テ多ク宝ヲ以テ僧ヲ供養シケリ其ノ時カノ上 座ノ僧不随喜亦タ不呪願セ夫人疑テ云我カワヅカノ供養ヲハ呪 願シ給シ今マ供養殊勝也ナト御随喜ナキト問フニ先ノ供養ハ功 徳大也仍テ呪願シキ今ノ供養ハ功徳ナシト答ケリ只人ノ労民 費ナルヘシ施ノ本意ハ止ルト己ヲ云ヘリ我カ可用ユ分ヲ不用ヒシテ弥スル 布施也公役ニ人民ノ血ヲ絞テ供養セムマコトニ功徳タルヘカラス 論ニ云夫レ施ハ在心不在事物ニ多ハ不成施心誠実ナルヲ施ト云ヘシ/3-21l
https://dl.ndl.go.jp/pid/13386679/1/21
○貧女カ一燈ト云事人コトニ知レリ之ヲ在世ニ難陀ト云フ非人ノ女 人有リケリ国王長者ノ万燈ヲトモシテ仏ニ供養スルヲ見テ浦 山敷思ヒテ我先世ニ福業ナクシテ貧賤ノ身トナレリ今世ニ善業 ナクハ来世モ憑ミナクカナシク覚テ一銭ヲ乞得テ油ヲ買ケリ 志ヲ語ルヲ聞テ売者少シ添テトラセケリ此ノ一燈ヲ仏ニ供養 シテ願ヲ発シテ云我レ一燈ヲ以テ一切衆生ノ愚痴ノ闇ヲ照シテ大 智光明法界ヲ照シテ一切衆生ト共ニ成ス菩提ノ道ヲ云々是レ只 我カ呪願也人ノ呪願ヲ不待タ此ノ志実アル故ニ餘ノ灯明ハ皆油ツキ 火消ケリ此ノ一燈数日不消目連維那ナルカ心ミニ吹キ扇ゲトモ 都テ不消ケリ目連此ノ事ヲ仏ニ奉ル問ヒ仏ノ言ハク彼ノ女人大乗ノ 心ヲ以テ燈ス設大海ノ水ヲ以テ消シ大風吹クトモ不可消汝声 聞ノ神通不可及フ以テ此ノ功徳ヲ多劫不堕セ悪趣ニ後チ可成ル燈光/3-22r
仏ト云々呪願アレトモ無実ノ功徳少シ心ニ有ハ実設ヒ無トモ呪願行 業成スル事有ン之レ仙人ノ意罸ノコトシ ○昔シ梵志有ケリ 山中ニシテ梵行シケリ妻相ヒ従ヒ給仕シケリ美人ナリケル事ヲ国 王聞給テ梵志ニ乞イ給ヒケルヲ王ノ威徳天下ニ召シ仕フ人不可ヘ乏シカル 我カ身ニハ此ノ妻昔ノ情ヲ以テ一人給仕ル事也御免アレトテ不可 進ス由申ヲ梵行ヲ修ス女人不可給トテ押テ召取ラレケリ梵志大ニ 憤恨テ天下ヲ可キ失フ念強盛也妻ニ告テ云ク我レ天下ヲ可失フ但 汝一人念シテ我ヲ一心ニシテ坐セヨトヲシヘケリ果シテ天ヨリ大ナル石ヲ下テ 国王并ニ人民一時ニ命チ了ンヌ此レヲ意罸ト云ヘリ身口ノ所作ナシ只 意業至テ強盛ニシテ此ノ事有リケリ三業ニハ意業本タリ身ト口トハ イカニ成ル事多レトモ意業ノ実ナケレハ善悪共不成業ヲ只纔ノ 遠縁タルヘシサレハ意ヲコラヌ事ヲ身口ハカリセメテヨシナシト思テ/3-22l
https://dl.ndl.go.jp/pid/13386679/1/22
同法等ヲモアナカチニ事行ナサシメス意実ナケレハナス事イタツラ ナルヘシ少ノ結縁ハアルヘシ ○昔賀茂ノ斎院道心者ニテオハ シケル斎院ノ習トテ昔ヨリ念仏申ス事ナシコレ本地ノ御心ヲ シラスシテ只凡心ノ思ヒツケタル事ナルヘシ常ニ西ニムカヒテ仏ヲハ御 心ニ念シナカラ口称ナカリケルサテ詠シテ云ク 思ヘトモ忌トテイハヌ事ナレハソナタニムキテネヲノミソナク サテメテタク往生シ給ヘリト申ツタヘタリ供料ニカカリ布施トラム トテ高声ニ念仏シ頸ヒネリテ申ス人ヨリモマコトアレハ往生スル 事也経ニ云若シ人臨時ニ不能ハ作コト念ヲ但知メ彼ノ方ニ有仏作往 生ノ意ヲ亦得往生ヲ云々コレ意念往生也観経ノ下品中生モ只 聞ク十二部経ノ名字ヲ意シテ往生スト見ヘタリ/3-23r
