巻3第1話(19) 乗戒緩急の事
校訂本文
貧道二十八歳の時、遁世の門に入りて、律学六七年に及ぶ。四十余の歳まで、随分に持斎(ぢさい)・梵行(ぼんぎやう)退転なく侍りしが、病縁に事を寄せ、懈怠(けだい)の心自然(じねん)に正体なくして、薬酒晩餐これを用ゆ。
南都の菩提山に住して侍りし時、ある人の物語に、「故明恵房上人、『われは犬侍者なり』とて、非時に菓子体(くわしてい)の物用ゐ給ひけり」と申ししを、いと思ひもとかず侍りしほどに、信州のある山の中を通りし時、犬辛夷(いぬこぶし)を見て、忽然(こつねん)としてそ意(こころ)を得たり。「得法悟道(とくほうごだう)もかくや」と覚え侍り。よつて量(りやう)を立て、一首を詠じて、菩提山の同法(どうぼふ)の僧のもとへ遣はして侍りし。思ひ出し侍り。
我はこれ犬侍者なり。(宗)1)
像(かたち)は似て実にあらざるゆゑに。(因2))
なほし犬辛夷のごとし。(喩)3)
猿似なる木律僧(きりそう)をばはなれつつ犬侍者にもなりにけるかな
同法の犬侍者のおろしするを見て詠ず。
羊の尾猿の頭を忘れつつ猫おろしする犬侍者かな
五明(ごみやう)の中の因明(いんみやう)に、宗(しう)・因(いん)・喩(ゆ)の三つを立て、外道(げだう)の見(けん)を破(は)し、ないし、大乗は小乗の義理を破する。これ仏法の下地の菩薩の五明の随一なり。
昔、劫毘羅(こうびら)外道4)、常見をおこして石となりたりしを、陳那(ちんな)菩薩、量を立ててこれを石の面(おもて)に書く。これによつて、石吼(ほ)え破れて失せにけり。
汝・我、無常。(宗)
外行を受くるゆゑ。(因)
なほ聚(あつ)まれる雲のごとし。(喩)
「声論外道、声は常なり。色形無きゆゑ」と計(け)せしを、仏弟子、量を立ててこれを破す。
声はこれ無常。(宗)
作所成のゆゑ。(因)
なほし瓶(びやう)等のごとし。(喩)
愚老、幸ひに人身を受け、浄戒を持つこと、宿善(しゆくぜん)といひ、今縁といひ喜悦の心肝に銘じて、三衣一鉢(さんえいつぱつ)は仏制として、釈子の什物(じふもつ)なつかしく侍るままに、これを持(たも)つこと年久し。形は如法(によほふ)の律僧に似て如法ならず、威儀欠けたり。犬辛夷に似たり。
千年、南都のある知音(ちいん)の僧房に宿(しゆく)して侍りしに、「薬はなり候ふか」と問ふに、「病者にてたべ候ふなり。飲むだにも悪(わろ)きことなり。いかが妄語をせむ」と申ししかば、悦びて下人に隠して穏便の器物に入れて勧め侍りし。
このことを知音の律僧に物語したりけるに、律僧に讃められて侍りける。かならず振舞ひのよくて讃められたるにはあらず。法の掟(おきて)を存ずるゆゑなるべし。
病者には酒は許されたり。律には、「医師(いし)の言をもつて、酒をもつて癒すべき病には、ほしいままに服すべし」と見えたり。大乗には、小酒多薬、病者に許されたり。上宮聖霊観音(じやうぐうしやうりやうくわんおん)の垂迹(すいじやく)として、天王寺の御手印縁起(ごしゆゐんえんぎ)に、「五辛・酒肉、病比丘に許す。病癒えば持斎すべし。云々」。
妄語は十重(じふぢゆう(の随一なし。いかが、たやすく利益なきに犯すべきと存する心を感じけるなるべし。三科・七大、もと如来蔵なり。また諸法実相なり。用ゆるところ得失あり。在家の酒宴に、そぞろにしひ、飲み狂ひ、こぼしつるは洪水のごとし。律僧の全分(ぜんぶん)に飲まず。炎旱(ひでり)のごとし。愚老が用ゆるは、日でりにちと夕立のしたるがごとし。またこれを用ゆるに、慈悲はあれども、昔より狂せることなし。あながちに重過あらじ。当病にこれを用ゆ。少しきあひ資(たす)け侍り。
天竺の祇陀(ぎだ)5)、末利(まつり)6)、唯酒唯戒(ゆいしゆゆいかい)と釈し給へることは、末利夫人、膳部(ぜんぶ)の者の命を助け、王の心をやはらげんとて酒を用う。仏にこの事を申す。八斎戒(はつさいかい)の日なるに、かへて持戒と讃め給ひけり。
祇陀太子は、「五戒を反し参らせて、十善戒を受けん」と仏に申す。其のゆゑを問ひ給ふに、「酒の一戒持(たも)ちがたし。郷(さと)の者の裹(つつ)み持ち来たて、われに勧む。用いざれば、彼れ心行かず」と。仏、問ひ給はく、「なんぢ、酒を用ゆ。その心いかん」。答へて云はく「都(すべ)て悪心なし」。仏の云はく、「なんぢにおひては過(とが)なし。昔、わが国の太子と大臣と、仲悪しくして、国乱るべきことありしに、太子、酒を用いず。母の后、勧めて酒を飲ましむ。大臣と寄り合ひて、遊びて心に適(かな)ひて闘諍(たうじやう)やみき。かくのごときことあるには咎なく、返て益(やく)あるべし」と、未曾有経に見えたり。
昔の陶淵明は、酒を愛し禅門を行じける。恵遠法師、白蓮舎の行者に語らひしに、「われ、酒を愛すれば入るべからず」と云けるを、強(し)ひて語らひて、「君住せば寺に酒を作らん」と云ひけると云へり。
楽天7)が云はく、「昔、陶淵明と云ひし人、酒を愛して名を愛せず。醒むるを憂へて貧しきを憂へず。人間栄と利と棄つること、泥団のごとし。昔、彭沢の令と為(な)つて官に在(い)ますこと纔(わづ)かに八旬、愁然として楽しまず。云々」。さしもの大官に処して、これを愁へ、うち棄てて五柳(ごりう)の下に皈(かへ)て、五人の子とともに、「酒をもつて真を養ふ」と云ひて座禅をのみしける。
かやうの人のためには、あやまて道の助けなり。何の過(とが)かあらん。本如来蔵なり。よく用いば善因なるべし。大乗の法門の意なり。
愚老、戒緩(かいくわん)なれども、乗急(じようきふ)の志、さすがに心にさしはさみながら、行儀はすたれはてて、坐禅観法もいとせられ侍らねば、倶緩(くくわん)の身になりはてぬるにや。悲しく侍り。遁世の始めは、乗戒倶急の志、南山大師8)の風儀を忍び侍りしが、今は倶緩の身なれば、悪趣逃れがたし。地蔵菩薩の悲願を深く憑(たの)み侍れば、眷属となりて、披毛戴角(ひもうたいかく)の身にもあれ、夜叉羅刹(やしやらせつ)の形にもあれ、かの方便を仰(あふ)ぐばかりなり。大乗の法門、識蔵に薫じなば、地獄天子・慈童女がごとく、解脱することやと、仏法の難思(なんじ)、非智(ひち)の徳用(とくゆう)を仰ぐばかりなり。
多年、大乗の法門を愛し翫(もてあそ)ぶ。さりとも、薫習(くんじゆ)の忘れざるは、形はいかにもあれ、仏法にあふ身なるべくは、生死(しやうじ)の夢の中の悦びなり。老後には病体ことに、座禅行法倦(ものう)く侍るままに、法華読誦常にしなれて、もの憂からず。有縁(うえん)の行と思へり。
そのかみ、三井(みゐ)9)の古き学生の申ししは、「末世の行には、読誦相応の行と経に見えたり」と申ししを、何経とまでは問ひ聞かず侍りし。当機に相応せむに付けては、もつとも行ずべきことなり。何事も常に翫(もてあそ)ぶには、いとはしく、めづらしからぬに、この行、随分倦(う)まず。この意。
五欲の境(きやう)は愛執(あいしふ)あれどいとはしくいつも飽かぬは一乗の経
何物も常に見るにはいとはししいつも飽かぬは粥と大乗
大乗の言の中に、法華・真言・禅門等、みな含(がん)せり。また大乗の茶もひそかに含ずべし。小乗・大乗の茶、同じく愛し侍り。
大乗の茶と云ふこと、嵯峨の浄金剛院の院主、道観房10)、浄土宗の学生、後嵯峨法皇の御帰依の僧と聞きしが、弟子の律僧、夏のころ、対面のために来たることありけるに、人を召して、「大乗の茶参らせよ」と云ふ。「何物にや」と思ふほどに、打銚子に玄水(げんすい)11)をたぶたぶと入れて来たれり。「や、御房、これを召せ。梵網経には、『酒の器を過ごせば、五百生手無き報ひを得る』と説かれたり。されども道観は極楽へ参ずれば、かたはものにはよもならじ。『大乗善根界は、等して機嫌の名無し。女人及び根欠、二乗種は不生』と云へり。されば根欠の身には生れじ。ただ召せ」と云ふに、「慎しんで言(ことば)なし。いでいで」とて、われ三杯飲みて、弟子にさす。弟子三杯飲む。「また持て来たれ」とて、また三杯飲みて、内野(うちの)にて酔(ゑ)ひ覚まして、「寺へ帰られよ」と云ふ。弟子、また三杯飲みてけり。
このことを聞き侍りしより、大乗の名もなつかしく覚え侍るままに、多くの名の中に「大乗の茶」と申しなしたり。をかしく侍り。
「玄水」は医書の中に見えたる名なり。あるいは僧の中には般若湯(はんにやたう)とも云へり。本説(ほんぜつ)は知らず侍り。俗の中には三寸(みき)と云へり。「これを飲みぬれば、風三寸身に近付かず」と云へり。「寸」を「き」と読むことは、馬の四寸・五寸なるをは四寸(よき)・五寸(いつき)と云ふ証拠なり。
あるいは「忘憂(ばういう)」と云ふ。これを飲みぬれば、憂へを忘るるゆゑなり。楽天が云はく、「世上の憂悲を忘る。第一には録にしかず。第二には酒にしかず。云々」。文集に在り。医書に云はく、「雪の中に山を越ゆるに、三人の中に、上戸(じやうご)は酒多く飲みたるは悩無し。小(すこ)しき飲むは、病みて死せざる。飲まざるはすなはち死す。云々」。
人身は受がたし。酒をもつて身を資(たす)け道行せば、仏道の助縁たるべし。悪用(あくゆう)は過(とが)有るべし。これ人の過なり。酒に必ずしも過あるべからず。
翻刻
雑談集巻之第三 乗戒緩急事 貧道二十八歳ノ時遁世ノ門ニ入テ律学及ブ六七年ニ四十 餘ノ歳マデ随分ニ持斎梵行無退転侍リシカ病縁ニ事ヲ寄セ 懈怠ノ心自然ニ無シテ正体薬酒晩餐用ユ之南都ノ菩提山ニ住シテ 侍シ時或ヒ人ノ物語ニ故明恵房上人我ハ犬侍者也トテ非 時ニ菓子体ノ物用ヒ給ケリト申シヲイト思ヒモトカズ侍シ程ニ 信州ノ或山ノ中ヲ通リシ時犬辛夷ヲ見テ忽然トシテ其意ヲ得タリ 得法悟道モカクヤト覚ヘ侍リ仍テ量ヲ立テ一首ヲ詠ジテ菩 提山ノ同法ノ僧ノ許ヘ遣テ侍シ思ヒ出シ侍リ 我ハ是犬侍者也宗像ハ似テ非実ニ故ニ因猶シ如犬辛夷喩 猿似ナル木律僧ヲハハナレツツ犬侍者ニモナリニケルカナ/2-3l
https://dl.ndl.go.jp/pid/13384727/1/3
同法ノ犬侍者ノヲロシスルヲ見テ詠ス 羊ノ尾猿ノ頭ヲ忘レツツ猫ヲロシスル犬侍者カナ 五明ノ中ノ因明ニ宗因喩ノ三ヲ立テ外道ノ見ヲ破シ乃至大 乗ハ小乗ノ義理ヲ破スル是仏法ノ下地ノ菩薩ノ五明ノ随一 也昔劫毘羅外道常見ヲオコシテ石ト成リタリシヲ陳那 菩薩量ヲ立テ是ヲ石ノ面ニ書ク依テ之ニ石吼破テ失ニケリ 汝我無常宗受外行故因尚如聚雲喩声論外道声ハ 常也無色形故ト計セシヲ仏弟子量ヲ立テテ破ス之 声ハ是レ無常宗作所成ノ故因猶シ如瓶等ノ喩 愚老幸ニ受ケ人身ヲ持ツ浄戒ヲ事宿善トイヒ今縁トイヒ喜悦ノ之 心肝ニ銘ジテ三衣一鉢ハ仏制トシテ釈子ノ什物ナツカシク侍ル ママニ持コト之ヲ年久シ形ハ如法ノ律僧ニ似テ如法ナラス威儀闕タリ/2-4r
犬辛夷ニ似タリ先年南都ノ或知音ノ僧房ニ宿シテ侍リシニ薬ハ ナリ候カト問フニ病者ニテタベ候也飲ダニモワロキ事也イカカ 妄語ヲセムト申シカハ悦ビテ下人ニ隠シテ穏便ノ器物ニ入テススメ侍シ 此ノ事ヲ知音ノ律僧ニ物語シタリケルニ律僧ニホメラレテ侍リケル カナラズ振舞ノヨクテホメラレタルニハアラズ法ノヲキテヲ存スル故 ナルベシ病者ニハ酒ハユルサレタリ律ニハ医師ノ言ヲ以テ酒ヲ以テ 可キ癒病ニハホシイママニ服スヘシト見ヘタリ大乗ニハ小酒多薬 病者ニユルサレタリ上宮聖霊観音ノ垂迹トシテ天王寺ノ御手 印縁起ニ五辛酒肉病比丘ニ許ス病癒エバ可シ持チ斎ス云々妄語ハ 十重ノ随一也イカガタヤスク利益ナキニ犯スヘキト存スル心ヲ 感ジケルナルヘシ三科七大本如来蔵也又諸法実相也所 用ユル得失アリ在家ノ酒宴ニソソロニシヰノミクルヒコボシツルハ/2-4l
https://dl.ndl.go.jp/pid/13384727/1/4
洪水ノ如シ律僧ノ全分ニ不飲マ炎旱ノ如シ愚老カ用ユルハ日テリニ チト夕立ノシタルカ如シ又用ルニ之ヲ慈悲ハアレトモ昔ヨリ狂セル事 ナシアナガチニ重過アラジ当病ニ用之少シキ相資ケ侍リ天竺ノ 祇陀末利唯酒唯戒ト釈シ給ヘル事ハ末利夫人膳部ノ 者ノ命ヲ助ケ王ノ心ヲヤワラケントテ酒ヲ用フ仏ニ此ノ事ヲ申ス八 斎戒ノ日ナルニ反テ持戒トホメ給ケリ祇陀太子ハ五戒ヲ 反シマヒラセテ十善戒ヲ受ント仏ニ申ス其ノ故ヲ問ヒ給フニ酒ノ一 戒難持チ郷ノ者ノ裹ミ持チ来タテ我ニススム不ハ用彼レ心不ト行仏問 給ク汝酒ヲ用ユ其ノ心如何答テ云ク都テ無悪心仏ノ云ク汝ニヲイ テハ過ナシ昔シ我国ノ太子ト大臣ト中カ悪クシテ国可乱ル事 アリシニ太子酒ヲ不用ヒ母ノ后勧メテ酒ヲ令シム飲マ大臣ト寄合ヒテ 遊テ心ニ適テ闘諍ヤミキ如此事アルニハ無咎返テ益アルヘシト/2-5r
未曾有経ニ見ヘタリ ○昔ノ陶淵明ハ酒ヲ愛シ禅門ヲ 行シケル恵遠法師白蓮舎ノ行者ニカタラヒシニ我酒ヲ愛スレハ 不可入ト云ケルヲ強テカタラヒテ君住セバ寺ニ酒ヲ作ラント 云ケルト云ヘリ楽天カ云ク昔シ陶淵明ト云シ人愛シテ酒ヲ不愛セ名ヲ憂ヘテ 醒ムルヲ不憂貧シキヲ人間栄ト與利棄ツルコト如泥団ノ昔シ為ツテ彭沢令在マスコト官纔カニ 八旬愁然トシテ不ス楽シマ云々サシモノ大官ニ処シテコレヲ愁ヘ打チステテ 五柳ノ下ニ皈テ五人ノ子トトモニ酒ヲ以テ真ヲ養ト云テ坐禅ヲ ノミシケル。カヤウノ人ノタメニハアヤマテ道ノ助也何ノ過カ有ン本 如来蔵也ヨク用ヒハ善因ナルヘシ大乗ノ法門ノ意也愚老戒 緩ナレトモ乗急ノ志サスガニ心ニサシハサミナカラ行儀ハスタレ ハテテ坐禅観法モイトセラレ侍ネハ倶緩ノ身ニナリハテヌルニヤ カナシク侍リ遁世ノ始メハ乗戒倶急ノ志シ南山大師ノ風儀ヲ/2-5l
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シノヒ侍シカ今ハ倶緩ノ身ナレハ悪趣逃レカタシ地蔵菩薩ノ 悲願ヲ深ク憑ミ侍レハ眷属トナリテ披毛戴角ノ身ニモアレ夜叉 羅刹ノ形ニモアレ彼ノ方便ヲ仰グバカリ也大乗ノ法門識蔵ニ 薫ジナバ地獄天子慈童女ガ如ク解脱スル事ヤト仏法ノ難思 非智ノ徳用ヲ仰グバカリ也多年大乗ノ法門ヲ愛シ翫ブサリトモ 薫習シテ不ハ忘レ形ハイカニモアレ仏法ニアフ身ナルベクハ生死ノ 夢ノ中ノ悦也老後ニハ病体コトニ坐禅行法倦ク侍ルママニ 法華読誦常ニシナレテ物ウカラス有縁ノ行ト思ヘリソノカミ三 井ノ古キ学生ノ申シハ末世ノ行ニハ読誦相応ノ行ト経ニ見ヘタリト 申シヲ何経トマテハ不問ヒ聞カ侍シ当機ニ相応セムニ付テハ尤可 行ス事也何事モ常ニ翫ブニハイトハシクメヅラシカラヌニ此ノ行 随分不倦マ此ノ意/2-6r
五欲ノ境ハ愛執アレトイトハシクイツモアカヌハ一乗ノ経 何物モ常ニ見ルニハイトハシシイツモアカヌハ粥ト大乗 大乗ノ言ノ中ニ法華真言禅門等皆含セリ又大乗ノ茶モヒソカニ 含ズベシ小乗大乗ノ茶同ク愛シ侍リ大乗ノ茶ト云事嵯峨ノ 浄金剛院ノ院主道観房浄土宗ノ学生後嵯峨法皇ノ 御帰依ノ僧ト聞シカ弟子ノ律僧夏ノ比為ニ対面ノ来ル事有ケルニ 人ヲ召シテ大乗ノ茶マヒラセヨト云何物ニヤト思フ程ニ打銚子ニ 玄水ヲタブタブト入テ来レリヤ御房是ヲメセ梵網経ニハ酒ノ 器ヲ過セハ五百生無キ手報ヒヲ得ルト説レタリサレドモ道観ハ極楽ヘ 参スレハカタハモノニハヨモナラジ大乗善根界ハ等シテ無機嫌ノ名 女人及ヒ根闕二乗種ハ不生ト云ヘリサレハ根闕ノ身ニハ生レジ タタメセト云ニ慎ンデ言ナシイデイデトテ我レ三杯飲テ弟子ニサス/2-6l
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弟子三杯ノム又モテ来タレトテ又三杯ノミテ内野ニテ酔 サマシテ寺ヘ帰ラレヨト云弟子又三杯飲テケリ此ノ事ヲ聞キ 侍シヨリ大乗ノ名モナツカシク覚ヘ侍ルママニ多クノ名ノ中ニ大 乗ノ茶ト申ナシタリヲカシク侍リ玄水ハ医書ノ中ニ見ヘタル名 也或ハ僧ノ中ニハ般若湯トモ云ヘリ本説ハ不ス知ラ侍リ俗ノ中ニハ 三寸ト云ヘリ是ヲ飲ヌレハ風三寸身ニチカヅカズト云ヘリ寸ヲ キト読ム事ハ馬ノ四寸五寸ナルヲハ四寸五寸ト云フ証拠也 或ハ忘憂ト云フ是ヲ飲ヌレハ憂ヲワスルル故也楽天カ云ク忘世 上憂悲ヲ第一ニハ不如禄ニ第二ニハ不如酒ニ云々在文集ニ医書ニ 云雪ノ中ニ山ヲ越ルニ三人ノ中ニ上戸ハ酒多ク飲タルハ無悩小キ 飲ハ病テ不死セ不ルハ飲マ即チ死ス云々人身ハ難受以テ酒ヲ資ケ身ヲ道行セハ 仏道ノ助縁タルベシ悪用ハ過可有ル是人ノ過也酒ニ必シモ/2-7r
過アルヘカラズ/2-7l
