同じ太政大臣(おほきおとど)¹⁾、左の大臣(おとど)²⁾の御母の菅原の君³⁾、隠れ給ひにけるころ、御服はて給ひにけるころ、亭子の御門⁴⁾なん、内裏(うち)⁵⁾に御消息(せうそこ)聞こえ給ひて、色ゆるされ給ひける。

されば、大臣、いときよらに、蘇芳襲(すはうがさね)など着給ひて、后宮⁶⁾に参り給ひて、「院の御消息の、いと嬉しく侍りて、かく色ゆるされて侍ること」など聞こえ給ひて、詠み給ひける。

　　脱ぐをのみ悲しと思ひし亡き人の形見の色はまたもありけり

とてなん泣き給ひける。そのほどは中弁になん、ものし給ひける。

同おほきおとと左のおととの御ははの
すかはらのきみかくれたまひにけるころ御ふくはて給にけるころ／d48l

ていしの御かとなんうちに御せうそこ
きこえ給ていろゆるされたまひける
されはおとといときよらにすわうかさね
なときたまひて后宮にまいり給て
院の御せうそこのいとうれしく侍て
かくいろゆるされて侍ことなときこ
え給てよみ給ける
  ぬくをのみかなしとおもひしなき
  ひとのかたみのいろはまたもありけり
とてなんなきたまひけるそのほと
は中弁になんものしたまひける／d49r