text:towazu:towazu5-21
とはずがたり
巻5 21 このほどよりやまた法皇御悩みといふことあり・・・
校訂本文
このほどよりや、また法皇1)、御悩みといふことあり。さのみうち続かせおはしますべきにもあらず、御悩(ごなう)は常のことなれば、「これを限り」と思ひ参らすべきにもあらぬに、「かなふまじき御事に侍る」とて、すでに嵯峨殿の御幸と聞こゆ。「去年(こぞ)・今年の御あはれ、いかなる御事にか」と、及ばぬ御事ながら、あはれに思えさせおはします。
般若経の残り二十巻を、今年書き終るべき宿願、年ごろ、「熊野にて」と思ひ侍りしが、「いたく水凍らぬさきに」と思ひ立ちて、長月の十日ごろに熊野へ立ち侍りしにも、御所の御事はいまだ同じさまに承るも、「つひにいかが聞こえさせおはしまさむ」などは思ひ参らせしかども、去年(こぞ)の御あはればかりは歎かれさせおはしまささりしぞ、うたてき愛別(あいべち)なるや。
翻刻
させおはしますこの程よりや又法皇御なやみといふ事/s231r k5-46
ありさのみうちつつかせおはしますへきにもあらす御なうは つねのことなれはこれをかきりとおもひまいらすへきにも あらぬにかなふましき御ことに侍とてすてにさかとのの御幸 ときこゆこそことしの御あはれいかなる御事にかとお よはぬ御ことなからあはれにおほえさせおはしますはんにや経 の残り廿巻をことしかきをはるへきしゆく願としころ熊 野にてとおもひ侍しかいたく水こほらぬさきにとおもひ たちてなか月の十日比にくまのへたち侍しにも御所の御こと はいまたおなしさまにうけ給はるもつゐにいかかきこえ させおはしまさむなとはおもひまいらせしかともこその御 あはれはかりはなけかれさせおはしまささりしそうたてき/s231l k5-47
http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/231
あいへちなるやれいのよひあかつきのこりの水をせむ/s232r k5-48
1)
亀山院
text/towazu/towazu5-21.txt · 最終更新: 2019/11/10 18:20 by Satoshi Nakagawa