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text:towazu:towazu2-25

とはずがたり

巻2 25 さるほどに四月の祭の御桟敷のこと兵部卿用意して・・・

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さるほどに、四月の祭1)の御桟敷のこと、兵部卿2)用意して、両院御幸(ごかう)なすなどひしめくよしも、耳のよそに伝へ聞きしほどに、おなじ四月のころにや、内3)・春宮4)の御元服に、大納言の年のたけたるが入るべきに、前官悪(わろ)し」とて、あまりの奉公の忠のよしにや、善勝寺が大納言5)を一日借り渡して参るべきよし申す。「神妙(しんべう)なり」とて参りて、振舞ひ参りて、返しつけらるべきよしにてありつるが、さにてはなくて、引き違(ちが)へ、経任6)になされぬ。

さるほどに、善勝寺の大納言、ゆゑなく剥れぬること、さながら父の大納言がしごとやと思ひて、深く恨む。当腹(たうぶく)隆良の中将7)に宰相を申すころなれば、「この大納言を参らせ上げて、われを超越(てうをつ)せさせんとする」と思ひて、「同宿もせんなし」とて、北の方が父九条中納言家8)に籠居しぬるよし聞く。

いとあさましければ、行きてもとぶらひたけれども、世の聞こえむつかしくて、文にて、「かかる所に侍るを、立ち寄り給へかし」など申したれば、「跡なく聞きなして後、よろづ言はん方なく思えつるに、嬉しくこそ。やかて、夜さり参りて、いぶせかりつる日数も」など言ひて、暮るるほどにぞ立ち寄りたる。

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出侍しさるほとに四月のまつりの御さしきの事兵部
卿よういして両院御かうなすなとひしめくよしもみみのよ
そにつたへききしほとにおなし四月のころにや内春宮
の御けんふくに大納言のとしのたけたるか入へきに前/s93r k2-56
官わろしとてあまりの奉公のちうのよしにやせんせうしか
大納言を一日かりわたしてまいるへきよし申すしんへう成とて
まいりてふるまひまいりて返しつけらるへきよしにて
有つるかさにてはなくてひきちかへつねたうになされぬ
さるほとにせんせう寺の大納言ゆへなくはかれぬる事
さなからちちの大納言かし事やとおもひてふかくうらむたう
ふくたかよしの中将にさい相を申すころなれはこの大納言
をまいらせあけて我をてうをつせさせんとするとおもひ
てとうしゆくもせんなしとて北方かちち九条中納言
家にろうきよしぬるよしきくいとあさましけれは
ゆきてもとふらひたけれとも世のきこえむつかしく/s93l k2-57

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/93

てふみにてかかる所に侍をたちよりたまへかしなと申たれは
あとなくききなして後よろついはんかたなくおほえつるにうれし
くこそやかてよさりまいりていふせかりつる日数もなといひ
てくるるほとにそたちよりたるう月のすゑつかたの事/s94r k2-58

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/94

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6)
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7)
四条隆良
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九条忠高
text/towazu/towazu2-25.txt · 最終更新: 2019/06/26 21:31 by Satoshi Nakagawa