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text:towazu:towazu2-24

とはずがたり

巻2 24 つくづくと案ずれば一昨年の春三月十三日に・・・

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つくづくと案ずれば、一昨年(おととし)の春、三月十三日1)に、初めて、「折らでは過ぎじ」とかや承り初めしに、去年(こぞ)の師走にや、おびたたしき誓ひの文を給はりて2)、いくほども過ぎぬに、今年の三月十三日に、年月さぶらひ慣れぬる御所の内をも住みうかれ、琵琶をも長く思ひ捨て、大納言3)かくれて後は親ざまに思ひつる兵部卿4)も心よからず思ひて、「わが申したることを咎めて出づるほどの者は、わが一期には、よも参り侍らじ」など申さるると聞けば、道閉ぢめぬる心地して、「いかなりけることぞ」と、いと恐しくぞ思えし。

如法、御所よりも、あなたこなたを尋ねられ、雪の曙5)も、山々寺々までも、思ひ残すくまなく尋ねらるるよし聞けども、つゆも動かれず隠れゐて、聞法の結縁も頼りありぬべく思えて、真願房の室(むろ)にぞ、また隠れ出で侍りし。

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つくつくとあむすれはおととしの春三月十三日にはしめて
おらてはすきしとかやうけ給りそめしにこそのしはすに
やおひたたしきちかいの文をたまはりていくほともすきぬ
にことしの三月十三日にとし月さふらひなれぬる御所
のうちをもすみうかれひわをもなかく思すて大納言かくれ
て後はおやさまにおもひつる兵部卿も心よからすおもひて/s92l k2-55

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/92

我申たる事をとかめて出るほとの物は我一こにはよも
まいり侍らしなと申さるるときけは道とちめぬる心ちして
いかなりける事そといとおそろしくそおほえし如法御所
よりもあなたこなたをたつねられ雪のあけほのも山々
寺々まてもおもひのこすくまなくたつねらるるよしきけ
ともつゆもうこかれすかくれゐて聞法のけちえん
もたより有ぬへくおほえて真願房のむろにそ又かくれ
出侍しさるほとに四月のまつりの御さしきの事兵部/s93r k2-56

http://kotenseki.nijl.ac.jp/biblio/100218515/viewer/93

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1)
巻2-6参照。
2)
巻2-17参照。
3)
父、久我雅忠
4)
四条隆親
5)
西園寺実兼。「雪の曙」の初出。
text/towazu/towazu2-24.txt · 最終更新: 2019/06/23 15:13 by Satoshi Nakagawa