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text:tosanikki:se_tosa35

土佐日記

1月26日 不明〜不明

校訂本文

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二十六日、まことにやあらん、「海賊追ふ」といへば、夜中(よなか)ばかりより船を出だして、漕ぎ来る道に、手向(たむ)けする所あり。楫(かぢ)取りして、幣(ぬさ)奉(たいまつ)らするに、幣の東(ひむがし)へ散れば、楫取りの申して奉(たてまつ)ることは、「この幣の散る方に、御船(みふね)すみやかに漕がしめ給へ」と<申して奉る。これを聞きて、ある女(め)の童(わらは)の詠める、

  わたつみのちふりの神に手向けする幣の追ひ風やまず吹かなむ

とぞ詠める。

この間に、風よければ、楫取りいたく誇りて、船に帆上げなど喜ぶ。その音を聞きて、童も女も、「いつしか」とし思へばにやあらむ、いたく喜ぶ。この中に、淡路の専女(たうめ)といふ人の詠める歌、

  追ひ風の吹きぬるときは行く船の帆て打ちてこそうれしかりけれ

とぞ。

天気(ていけ)のことにつけつつ祈る。

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廿六日まことにやあらむかいそくおふと
いへはよなかはかりよりふねをいたして
こきくるみちにたむけするところ
ありかちとりしてぬさたいまつらす
るにぬさのひむかしへちれはかち
とりのまうしてたてまつることはこの
ぬさのちるかたにみふねすみやか
にこかしめたまへとまうしてたて
まつるこれをききてあるめのわらは/kd-32r
のよめる わたつみのちふりのかみ
にたむけするぬさのおひかせやま
すふかなむとそよめるこのあひたに
かせよけれはかちとりいたくほこ
りてふねにほあけなとよろこふ
そのおとをききてわらはもおむ
なもいつしかとしおもへはにやあら
むいたくよろこふこのなかに
あはちのたうめといふひとのよめる/kd-32l

https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100421552/32?ln=ja

うた おひかせのふきぬるときは
ゆくふねのほてうちてこそう
れしかりけれとそていけのことに
つけつついのる/kd-33r

https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100421552/33?ln=ja

text/tosanikki/se_tosa35.txt · 最終更新: 2023/09/23 16:31 by Satoshi Nakagawa